読書メモ

無慈悲なる自同律-中村雄二郎『述語集』より

自同律は、矛盾律(《Aは非Aでない》)や排中律(《AはBでも非Bでもないことはありえない》)とともに形式論理学の三大法則と呼ばれているけれど、後の二つは自同律の変型されたものであり、形式論理学を支配しているのは自同律である。そういうものと…

オカルトが世界を動かす-エミール・シオラン『生誕の災厄』より

人がひた隠しにしようとしているものにしか、深さと真実はない。 エミール・シオラン『生誕の災厄』(紀伊國屋書店、1976年) 人生における真理を紹介する。〈提案は、する側に得がある〉。反転させてもよい。〈自分に得がなければ提案しない〉。提案をする…

語られなかったことは何か-養老孟司『読まない力』より

先日NHKが、新聞でいえば論説委員に相当する中堅を集めて、温暖化問題に関する数時間の討論番組を放映した。私はたまたまそれを見てしまった。NHKの意見はいわば公論で、世間の一般的意見を代表すると考えていいであろう。 こういう場合、私が気にする…

カオスの前の空白-西尾維新『暦物語』より

「……騙されるほうが悪い──って言いたいのか?」「そう言われると、そうは言いたくなくなるな。時代が悪いとでも言っておこうか。『なんでこんなものがはやってるんだ?』『はやったんだ?』というようなカオス状態を論じたいのならば、カオスの前の空白をこ…

うわさが炙りだす、ひとの本音-常光徹『学校の怪談』より

うわさはつねに信じられることを前提に広まっていく性質をもっている。その意味では、うわさは心のどこかで期待し信じたいことの露呈なのである。(常光徹『学校の怪談』新装版(ミネルヴァ書房、2013年)p.51) それまでにも「学校の怪談」という言葉がなか…

消費がアイデンティティを埋め合わせる-熊代亨『融解するオタク・サブカル・ヤンキー』より

アイデンティティを埋め合わせ、「私はこういう人間です」を確立させたいと願う気持ちは、単に心理的安定に繋がるだけではありません。若者の技能習得や切磋琢磨へのモチベーションとなって、自分の居場所や役割を確保していく原動力になり得るものです──少…

自分を規定する他者の存在-中村雄二郎『述語集』より

《自分が自分であること》を自分では証明できないことは、また、自分の存在を自分で根拠づけうるかという問題にも通じる。そしてその問題を考える上にまず見逃すことができないのは、R・D・レイン(『自己と他者』一九六一、六九年)などがいう相補的アイデ…

1億人を殺害したといわれる共産主義~ステファヌ・クルトワ『共産主義黒書』

「不条理なるが故に、われ信ず」 タイホ・ツイホウ・ショケイ。共産主義ってのは、早い話が科学バカが書いた経済シナリオ、マルクス経済学の用語で言うところの〈下部構造〉なんだな。唯物史観は、ひとの歴史の発展には客観法則があるとする。従って共産主義…

中沢新一『アースダイバー』(講談社、2005年)

「頭の中に描いた世界を現実化するのが、一神教のスマートなやり方だとすると、からだごと宇宙の底に潜っていき、そこでつかんだなにかとても大切なものを材料にして、粘土をこねるようにしてこの世界をつくるという、かっこうの悪いやり方を選んだのが、私…

パトリク・オウジェドニーク『エウロペアナ』(白水社、2014年)他

柳田國男は「自分の野望を打ち明けるならば、現代生活のあらわれては消える日々の事実から歴史を描きたい(意訳)」と書いた。おそらく、このあたりの思想にわたし自身嵌入し、サブカルから人生一般を考察し得る思想を組み立てられないかと妄想するようにな…

ハクスリー『すばらしい新世界』(光文社古典新訳文庫、2013年)

「「しかし今はたったひとりでいる人間はいないからね」とムスタファ・モンドは言った。「われわれはみんなが孤独を嫌うよう仕向けている。そして孤独になることがほぼ不可能なように生活をお膳立てしている」」 (原文は2014年執筆)ソーマ・ツカノマ・ハレ…

ショウペンハウエル『読書について 他二篇』(岩波文庫、1983年)

(原文は2015年執筆)哲学者なんて、身体も動かさず、頭のなかだけでうじうじものを考える、なまっちろい、よく言えばデリケート、わるく言えばナイーブなひとだと、考えている時期があった。 しかしショウペンハウエル『読書について』を読んだとき、こんな…

米澤穂信『遠回りする雛』(角川文庫、2010年)

(原文は2015年執筆)『氷菓』『愚者のエンドロール』『クドリャフカの順番』と長編が続いた古典部シリーズは、ひとまず3巻目にしてひと段落。シリーズ第4弾となる本作は初の短篇集だ。主人公・折木奉太郎とヒロイン・千反田えるが出会った4月から翌年の…

米澤穂信『クドリャフカの順番』(角川文庫、2008年)

(原文は2015年執筆)文化祭で頒布する文集、文化祭で上映される映画とモチーフをつないできた本シリーズ。今まで遠くにしか見えてこなかった神山高校文化祭、通称「カンヤ祭」が本作でいよいよ始まる。だが、文化祭に向けて、古典部メンバーの胸中を暗く満…

米澤穂信『愚者のエンドロール』(角川文庫、2002年)

(原文は2015年執筆)夏休みの一日、上級生の入須冬実によって視聴覚教室に呼び集められる古典部の面々。入須は彼女のクラスが文化祭に向け制作している映画の講評を彼らに求める。映像には、廃館を舞台にした密室殺人事件が映しだされるが、犯人が判明する…

米澤穂信『氷菓』(角川文庫、2001年)

(原文は2015年執筆)今さらという声の向かい風に抵抗しつつ、今さらながらに『氷菓』を紹介する。前回、米澤作品として『さよなら妖精』を紹介した。『妖精』は書籍以外での露出がなく、ファンを別とした知名度はいまいちだろう。一方、こちらの『氷菓』は…

自己紹介に代えて~ピエール・バイヤール『読んでいない本について堂々と語る方法』

こちらのブログにある「読書メモ」は「書評」ではありません。読んだ本からわたしが連想的に思いついたことを綴ったまでに過ぎません。ですから、本の内容に触れることもあれば、ときにまったく関係ないことが延々と語られていたりもします。 本から得た知識…

高山宏『殺す・集める・読む 推理小説特殊講義』(東京創元社、2002年)

(原文は2014年執筆) しかしながら、ぼくが本当に皆さんに知っていただきたいのは、学問や文化にだれることなく、素朴な疑問を持って、それを解決する「方法」そのものを模索する、永遠に新しく、楽しい作業です。この二十年、幸運に恵まれてそういう作業が…

米澤穂信『さよなら妖精』(創元推理文庫、2006年)

(原文は2015年執筆)バルカン半島の代名詞といえば「ヨーロッパの火薬庫」。 なぜ「火薬庫」かをきちんと説明するには『坂の上の雲』全8巻分くらいのボリュームが必要となろう。兎にも角にもめちゃくちゃ複雑なのだ。 荒っぽく要約するならば、民族と宗教…