米澤穂信『愚者のエンドロール』(角川文庫、2002年)

愚者のエンドロール (角川文庫)

(原文は2015年執筆)
夏休みの一日、上級生の入須冬実によって視聴覚教室に呼び集められる古典部の面々。入須は彼女のクラスが文化祭に向け制作している映画の講評を彼らに求める。映像には、廃館を舞台にした密室殺人事件が映しだされるが、犯人が判明する前に途切れる。すなわち、未完なのだ。どんな目論見から呼び出されたかをいぶかる奉太郎。入須は彼に、映画に描かれた殺人事件の真犯人と密室トリックを解き明かして欲しいと依頼する。
 
渋る奉太郎に彼女はオブザーバーとしての参加を提案する。映画のオチを推理したクラスメイトたちにジャッジをくだせばいいという。好奇心を焚き付けられた千反田によって真相究明に引き釣りこまれる古典部。彼らの前に〈探偵〉志願者たちがあらわれ「迷」推理を披露する。混迷する真相。脚本を書いた少女の意図は? シャーロック・ホームズの小説に残された記号の意味は? かくして、ひと夏のミステリーの宴が催される。
 
古典部」シリーズ第二弾『愚者のエンドロール』。物語の途中、里志がみんなをタロットカードになぞらえる。入須は「女帝」、摩耶花は「正義」、奉太郎は「力」、里志自身は「魔術師」、そして千反田が「愚者」。これは物語の先行きを暗示するヒントであろうか。エンドロールとは、映画の最後に出てくるスタッフ・キャストの一覧表。里志の喩え通りならば、千反田こそ『愚者のエンドロール』の愚者であるわけだけれども、そこに込められたメタファーは何か。
 
本作は、古典部以外の女生徒たちも魅力的。女帝のあだ名を持つ入須冬美の圧倒的存在感。恐怖感? そんな入須のメッセンジャーとしてのみ登場する江波倉子。ただ、彼女が感情を露わにするシーンが一瞬あり、意味深。〈探偵〉志願者のひとり、エキセントリックな言動が印象的な沢木口美崎。彼女は『氷菓』で名前がすでにあらわれていた。キャラクターが作品をまたいで登場するのは、作家の世界観をこよなく愛するひとにとっては嬉しいおまけ。
 
本シリーズは青春ミステリー。前作でも触れたことだが、読み終わったあとに何とも割り切れない余韻が残る。苦味が口中に広がる。自分の学生時代を振り返ってみてもここに描かれているような登場人物たちの葛藤はあったと感じる。読者が本シリーズにリアリティを見るゆえんであろう。だれもが答えの出ない葛藤を経て、大人になる。古典部のメンバーとともにもう一度過ぎ去りし高校生活にひたるのも楽しい。若さの苦さとともに。
 
次作『クドリャフカの順番』では、いよいよ神高名物の文化祭が開催される。そこへ向けての前哨風景を描いた本作。あとがきを読むと、アントニイ・バークリー『毒入りチョコレート事件』へのオマージュとして本作が執筆されたことがわかる。わたしも過去に読んだが、記憶の楼閣からはすっかり抜け落ちている。再読するか。みなさんも神高生になったつもりで探偵役や奉太郎たちとともに推理を楽しんでほしい。

 

愚者のエンドロール (角川文庫)

愚者のエンドロール (角川文庫)

 
毒入りチョコレート事件【新版】 (創元推理文庫)

毒入りチョコレート事件【新版】 (創元推理文庫)