子供にもわかるほど単純な真実-コーマック・マッカーシー『血と暴力の国』より

真実ってやつはいつだって単純なんだろうと思う。絶対そうに違いない。子供にもわかるほど単純でなくちゃならないんだ。子供の時分に覚えないと手遅れだからね。理屈で考えるようになるともう遅すぎるんだ。(コーマック・マッカーシー『血と暴力の国』)

 フランスの社会学者・エドガール・モランが解き明かしたように、フランスの地方都市オルレアンをつかの間席巻した、ユダヤ人による婦女誘拐のうわさ話は、彼女たちのアバンチュールへの妄執が生み出したものだった。

 真実が身も蓋もないほどに人間の本性をあらわしているとき、ひとは真実が突きつける切っ先の鋭さに脅え、それを元の姿からは想像もつかない奇形に作り変えてしまう。現場で起きたクレーム事案が組織の階梯を登り、トップに伝わるころには、元の内容が原形をとどめていないのと同じことである。

 ただ、人間社会には真実が紛い物になるケースとは逆に、紛い物が真実になってしまうケースも多い。魚の〈タラ〉に人工着色料と香料を添加すると、それはなぜか〈イカ〉として商品棚に並んでしまうのである。

 

血と暴力の国 (扶桑社ミステリー)

血と暴力の国 (扶桑社ミステリー)

 
オルレアンのうわさ―女性誘拐のうわさとその神話作用

オルレアンのうわさ―女性誘拐のうわさとその神話作用