共産主義の捜査を垣間見る-トム・ロブ・スミス『チャイルド44』より

 トム・ロブ・スミスチャイルド44』がことのほか面白い(ただしまだ上巻)。おそらくアンドレイ・チカチーロによる児童連続殺人事件を題材にしているのだろう。しかし面白いのはそちらの主旋律となる事件ではなく、ソ連共産党内における犯罪捜査の実態らしきものが垣間見えるところ。面白いだと語弊がある。下手なサスペンス小説より恐ろしいと言い換えよう。

 共産主義は間違いを認めない官僚主義特有の無謬を尊ぶため、国内に犯罪者は存在しないというスタンス。そうであるなら警察はいないのかというと、一応、人民警察がいる。ただ、日本の村の駐在さんより権力がない。町工場で溶接するひとと同じようなもの。何せ、労働者はすべて平等なのだから。

 そんなことで犯罪が抑止できるのかと思うが、共産主義ではツーアウトが「ない」。少しでも犯罪の匂いがすれば、闇から闇へ葬る。マイナス50度になる強制収容所などへ送り、そこで懲役刑という名の死刑に処してしまう。それに犯罪統計は減少しか認めない。増加したら、その区域の警察担当者たちは全員更迭。だから犯罪があっても隠蔽するようになる。共産主義には前進しかあり得ず、決して後退を認めない。共産主義に犯罪者はいないのである。

 ただ民警では政治犯を暴き捕まえるだけの能力がないから、そこはご存知KGBが受け持つ。そして、これまたKGBに一度でも疑われたら、まず生き残る術はない。仮に無実であっても、拷問の末に死ぬか、捏造された調書に有罪を認めるサインをする以外の選択肢はない。わたしは日本の特別高等警察、いわゆる特高の価値を認めはしないが、彼らは一般人ではなく、こうした共産主義者に牙を剥いていた。その気持ちが分からないでもない。

 たまたま今、アメリカ軍による日本占領に関する本も読んでいる。もしソ連に占領されていたら、日本の警察事情も上に書いたようなことになっていただろう。アメリカに占領されたことは、日本にとって不幸中の最大の幸運だったといえるかも知れない。

 

チャイルド44 上巻 (新潮文庫)

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ゾンビ襲来: 国際政治理論で、その日に備える

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