外部をもたぬ世界の息苦しさ-柞刈湯葉『横浜駅SF 全国版』より

自己増殖を続ける横浜駅が本州を覆い尽くしてから、既に五〇年が経過していた。駅構造は幅の広い津軽海峡を渡ることはできないため、上陸阻止のためにはこの青函トンネルの出口さえ封鎖すれば良い。(柞刈湯葉横浜駅SF 全国版』)

 やらかした。わたしが読んだのは続編。別に正編がある。しかし『横浜駅SF』と『横浜駅SF 全国版』ならば、オリジナル版と、後日談を追加した完全版くらいの違いだと思ってしまう。今さら正編に戻る気力もなく。

 横浜駅が増殖し、日本を覆い尽くしていく。人類は、というか本州以外のJR各社は生存環境を確保するためにも横浜駅と戦わねばならない。ただ、増殖した横浜駅のなかにもひとの居住空間は存在し、そこで新たな暮らし、エキナカ社会が営まれている。SuikaSuicaではない)という脳内チップがマイナンバーカードのような役割を果たし、それがないと、横浜駅への立ち入りを禁じられてしまう。

 本作以外にも、ヒュー・ハウイー『ウール』、矢部嵩『〔少女庭国〕』、キング『アンダー・ザ・ドーム』、残雪『黄泥街』、マンガだとたかみち『百万畳ラビリンス』など、閉鎖された空間のなかで演じられる物語は、読んでいると息苦しい。外部を喪失することで、自分という人間の輪郭もまた拡散してしまう。やはり、好きなときにどこにでも飛んでいける身体的自由こそが人間にとっての根源的なアイデンティティなのだと思いを新たにする。

 

横浜駅SF 全国版 (カドカワBOOKS)

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横浜駅SF (カドカワBOOKS)

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ウール 上 (角川文庫)

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黄泥街 (白水Uブックス)

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百万畳ラビリンス(上) (ヤングキングコミックス)

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