ちくま文庫ホラーアンソロジーの第2弾は『宿で死ぬ』です。旅館やホテルといった宿泊先で怪異と遭遇したという話はけっこう耳にしますよね。室内の掛け軸や絵画の裏に御札が貼ってあるとか、今やそれが人口に膾炙してしまい宿泊客にすぐさまバレるため、ベッドのしたや書き物机の引き出しの裏に貼ってあるんだとか。旅先の心細さが怪異を見せるというか、怪異につけ込まれるのでしょう。3坂東「残り火」、ふだん怒らぬひとほど怒ると(かなり)怖い。5山口「湯煙事変」、時代劇。深夜独りで入る温泉は弛緩と緊張が入り混じった妙なひとときですね。6恩田陸「深夜の食欲」、わたしも経験がありますが、夜勤仕事は想像力が暴走します。
個人的には、もはや古典の観があるスティーヴン・キング『シャイニング』や「一四〇八号室」(『幸運の25セント硬貨』収録)といった宿泊ホラーが好きですね。後者は、ジョン・キューザック、サミュエル・ジャクソン主演で『1408号室』(2006)として映画にもなっています。『若おかみは小学生!』も幽霊が取り憑いた旅館が舞台ですが、こちらは可愛らしい作品、ホラーではありません(笑)
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1.遠藤周作「三つの幽霊」
底本『新撰版 怪奇小説集 「恐」の巻』講談社文庫、2000年 ルーアン、リヨン、熱海で起きた怪現象を綴った「三つの幽霊」をはじめ、とっておきの怖い話が九編。人一倍怖がり屋だった作者の恐怖心と好奇心が生み出した、不朽の名作集の新撰版。
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2.福澤徹三「屍の宿」
底本『死小説』幻冬舎文庫、2008年 ひとは、いつか死ぬ。それをはじめて知ったのは、いつのことだろう―。入院先のベッドの上で非業の死を遂げた男の「憎悪の転生」、ある痴呆老人の部屋に見え隠れする怪異の「黒い子供」、夏に小中学生の男女が離れにこもって行った暗い遊びのエロスと恐怖を描く「夜伽」など全五篇。
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3.坂東眞砂子「残り火」
底本『屍の聲』集英社文庫、1999年 「惚けてしまったおばあちゃんは生ける屍や。正気のおばあちゃんは死にたがっている」そう信じた少女は溺れる祖母を見殺しにした。そして通夜の席で一瞬、確かに祖母は蘇った―表題作「屍の声」のほか、5編の恐怖短編を収録。因習としがらみの中で生きる人間たちの、心の闇に巣くう情念の呪縛。濃密な風土を背景に描く、恐怖の原型とは。記憶の底に沈む畏怖の感情を呼び起こす本格ホラー小説集。
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4.小池壮彦「封印された旧館」
底本『幽霊物件案内2』同朋舎、2001年 あなたの周りに恐怖の「幽霊物件」はありませんか? ホテル、旅館、マンション、家、学校、会社、病院、飲み屋、放送局、車などにまつわる怖い話を紹介。
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5.山口朝子「湯煙事変」
底本『エムブリヲ奇譚』角川文庫、2016年 「わすれたほうがいいことも、この世には、あるのだ」無名の温泉地を求める旅本作家の和泉蝋庵。荷物持ちとして旅に同行する耳彦は、蝋庵の悪癖ともいえる迷い癖のせいで常に災厄に見舞われている。幾度も輪廻を巡る少女や、湯煙のむこうに佇む死に別れた幼馴染み。そして“エムブリヲ”と呼ばれる哀しき胎児。出会いと別れを繰り返し、辿りついた先にあるものは、極楽かこの世の地獄か。哀しくも切ない道中記、ここに開幕。
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6.恩田陸「深夜の食欲」
底本『異形コレクション9 グランドホテル』廣済堂文庫、1999年 闇を愛する皆様。ようこそ。おいでくださいました。此処は、知る人ぞ知る伝説のホテル。超一流のサーヴィスを受けるに相応しい読者の皆様方を、かねてより、お招きいたしたく、御案内状をしたためた次第です。はい。「異形コレクション」九回目のおもてなしは、この「グランドホテル」のヴァレンタイン・フランから。
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7.綾辻行人「カンヅメ奇談」
底本『深泥丘奇談・続々』角川文庫、2019年 さまざまな怪異が日常に潜む、“もうひとつの京都”―妖しい神社の「奇面祭」、「減らない謎」の不可解、自宅に見つかる秘密の地下室、深夜のプールで迫りくる異形の影、十二年に一度の「ねこしずめ」の日…恐怖と忘却の繰り返しの果てに、何が「私」を待ち受けるのか?本格ミステリの旗手が新境地に挑んだ無類の奇想怪談連作、ここに終幕。
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8.北野勇作「螺旋階段」
底本『異形コレクション9 グランドホテル』廣済堂文庫、1999年 闇を愛する皆様。ようこそ。おいでくださいました。此処は、知る人ぞ知る伝説のホテル。超一流のサーヴィスを受けるに相応しい読者の皆様方を、かねてより、お招きいたしたく、御案内状をしたためた次第です。はい。「異形コレクション」九回目のおもてなしは、この「グランドホテル」のヴァレンタイン・フランから。
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9.半村良「ホテル暮らし」
底本『夢あわせ』文春文庫、1992年 隆夫と伸子は南青山のマンションに住み、結婚して3年もたつのに新婚のように仲むつまじい。2人は寝ている時間の夢まで共有しようと努力し、ついに夢の中で2人きりのゴルフを楽しんだが―表題作以下、現代を舞台に怪奇譚、幻想譚が縦横にくり広げられる。この世であってこの世でない半村サイエンス・ファンタジー12篇。
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10.都筑道夫「狐火の湯」
底本『深夜倶楽部』徳間文庫、1992年 週末毎に集い、怪奇譚を披露しあう「深夜倶楽部」の面々。今夜は老俳優の番だ―。夫と死別して病臥する妹を、亡夫に変装して見舞ってほしい、と学友から依頼された私は、大役を果たした翌朝、彼の娘から、女は二度目の若い妻だと知らされた。不倫相手の病死で、精神に異常をきたしたとも。そして庭に咲く彼岸花の一叢に立つ女を認めた時、学友は私に杖を振りかざした(死びと花)。七つの恐怖を収録。
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11.小川洋子「トマトと満月」
底本『寡黙な死骸 みだらな弔い』中公文庫、2003年 息子を亡くした女が洋菓子屋を訪れ、鞄職人は心臓を採寸する。内科医の白衣から秘密がこぼれ落ち、拷問博物館でベンガル虎が息絶える―時計塔のある街にちりばめられた、密やかで残酷な弔いの儀式。清冽な迷宮を紡ぎ出す、連作短篇集。
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