ジュンク堂書店池袋本店・丸善京都本店「「陰謀論」の時代」愛書家の楽園vol.117、2021年【21冊】
フリーメイソンの陰謀論、ユダヤ陰謀説、ヒト型爬虫類による支配説、Qアノン──。昔から陰謀論は存在し流布することはあったが、なぜ現在のように陰謀論がまことしやかに語られる時代を迎えたのか、また陰謀論の流布によってどんな時代になったのだろうか。(リーフレットより)
陰謀というのは、考えてみるに不思議な概念ですね。
ひとの目に触れぬ水面下の計画がすべて陰謀というわけではありません。そうした言い方をしたのなら、企業の極秘プロジェクトはすべて陰謀になってしまうわけですから。計画のなかに現状法的には許されていない手続きが含まれている場合に、ひとはそれを陰謀と呼ぶのでしょう。詐欺であったり、暴力であったり、権利の抑圧であったり、行き着くところまで行ってしまえばひとの死であったり。だからといって、ヤクザの地上げを陰謀とは呼びません。陰謀には一定の規模感というか、関与するプレイヤーの人数も必要なようです。そうした規模感をリアリティとして提供してくれるものというと、やはり政治が舞台になってくるでしょう。
一方、陰謀に取り憑かれてしまうひとには共通する感覚があるようでして、それは「覚醒感」です。目が覚めたというインパクトに比例して、陰謀の信憑性も深まるようです。したがって、「目からウロコが落ちた」ときが陰謀論に最も落ちやすいときでもあります。
ところで、陰謀論と一笑に付されていた陰謀が実在すれば、陰謀論として指弾していた人びとが「陰謀論が作り出されている」という陰謀論に取り憑かれていたことになります。また、人口に膾炙するような陰謀であるなら、それはそもそも陰謀と呼べないのではないかという逆説も浮上してくるわけです。「知らないものを知っている」というパラドックスですね。考えれば考えるほどに、陰謀というのは不思議な概念です。
アメリカ大統領選をめぐる騒動で注目を集めた「Qアノン」を筆頭に、陰謀論のインパクトが全世界的にかつてなく高まりつつあるなか、いま私たちに可能な、そして必要な向き合い方とはいかなるものか。本特集では現代社会のさまざまな領域に潜む陰謀論的思考のありようを炙り出すとともに、その歴史を改めて紐解くことを通じて、私たちの信と知をゆるがす深淵へと肉薄したい。 |
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辻隆太『世界の陰謀論を読み解く』講談社現代新書 偽史を紡ぐのは誰か? 偽書・世界征服計画の書『プロトコル』、フランス革命とメーソンの関係、新世界秩序陰謀論の論理、日本でたびたび巻き起こる震災デマ……。陰謀論という考え方は、たったひとつの視点で世界のすべてを明瞭に説明する、非常に便利な思考のフィルタである。 |
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戦後アメリカの保守主義は、「保守」という呼称に反して、アメリカ社会の改革をめざす思想だった。オールドライト、ニューライト、ネオコン、ペイリオコン、ナショナル・コンサーヴァティズム、リフォーミコン…。その思想と運動を担った一人ひとりの生涯と、その根底をなす哲学や宗教へと深く分け入り、「トランプ以前」の知られざる戦後アメリカ史を描く。 |
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白人至上主義と自国第一主義が結びついた「白人ナショナリズム」。トランプ政権の誕生以降、注目を集めるオルトライトをはじめ、さまざまな勢力が連なる反動思想だ。反共、反多文化主義、反ポリティカル・コレクトネスといった旧来の保守と共通する性格の一方、軍備拡張や対外関与、グローバル資本主義を否定する。社会の分断が深まるなか、自由主義の盟主アメリカはどこへ行くのか。草の根のリアルな動向を現地から報告。 |
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マイケル・バーカン『現代アメリカの陰謀論』三交社 「邪悪な秘密の権力」の強大さに強迫的な関心を抱き、その真の正体追跡に邁進する“陰謀”論者たちの、眩暈を起こしそうな多種多様の言説を丁寧に拾い上げながら、それを育む現代の宗教・政治・文化の危険な体質を鮮やかに照射する。 |
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真理は我々が立つ大地であり、我々の上に広がる天空である。 |
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流言蜚語、風評、誤報、陰謀論、情報宣伝…….現代史に登場した数々のメディア流言の「真実」を見極め、それぞれの影響を再検証するメディア論。ポスト真実のデジタル情報化時代に求められる、「バックミラーをのぞきながら前進する」メディア史的思考とは何か。「あいまい情報」のメディア・リテラシーがいまここに。 |
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フェイクニュース、オルタナティブファクト…、力によって事実が歪められる時代はいつから始まったのか。政治や社会への広範なリサーチと、人間の認知メカニズム、メディアの変容、ポストモダン思想など様々な角度からの考察で時代の核心に迫る。アメリカ「PBSニュースアワー」2018年ベストブックノミネート&世界六ヵ国翻訳のベストセラー、待望の翻訳。 |
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倉橋耕平『歴史修正主義とサブカルチャー』青弓社 なぜ歴史修正主義を支持するのか?自己啓発書、雑誌、マンガ、新聞報道―1990年代の歴史修正主義とメディアの結び付きを、アマチュアリズムと参加型文化という視点からあぶり出し、現代の右傾化に通じる保守言説の「原画」と「知の枠組み」を照らし出す社会学の成果。 |
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木澤左登志『ダークウェブ・アンダーグラウンド』イースト・プレス 本書ではアメリカ西海岸文化から生まれたインターネットの思想的背景を振り返りながら、ダークウェブという舞台に現れたサイトや人物、そこで起きたドラマの数々を追う。「自由」という理念が「オルタナ右翼」を筆頭とした反動的なイデオロギーと結びつき、遂には「近代」という枠組みすら逸脱しようとするさまを描き出す。 |
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デジタル・テクノロジーが国境や民族を超えて繋がる自由で民主的な世界を産み出す一方で、誰にも予想できなかった事態が起こっている。SNSやビッグデータ、AIの進化が、社会システムの基層を大きく変え、「人間」そのものを変えつつあるのだ。ネットは人々の感情を増幅させ、共有される匿名の怒りが世界を分断する。データ分析は、選挙や政策決定にも影響を及ぼしている。さらにプラットフォームを握る企業が市場を独占し、AIによる労働環境は所得の格差を拡大し、社会の分断はますます拡がっていく。テクノロジーがもたらす新たな社会課題を乗り越える解決策をデータテクノロジーの専門家が指し示す。 |
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計算社会科学とは,人間の相互関係によって成り立つ社会をデータに基づいて解明していく学問である. この学問分野はコンピュータサイエンスや社会科学など様々な分野の研究者により進められている学際分野であり,研究を行うための基礎学問も多岐にわたり,すべてに精通することは難しい. そこで本書は,計算社会科学を俯瞰的に捉え,主に技術的な側面から「計算社会科学とは何か」を紹介すべく企画された. |
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「ユダヤ」の人々は数千年にわたって、信仰や記憶を通じて一つに結びついてきた一方で、自らが生きた時代や地域の中で、きわめて多様な姿を見せることとなった。一神教の誕生から、離散と定住、キリスト教・イスラームとの共存・対立、国際的ネットワークの展開、多彩な才能の開花、迫害の悲劇、国家建設の夢、現在の紛争・テロ問題にいたるまで、そこにはこの世界の複雑さが映し出されてもいる。「民族」であると同時に「信徒」である「ユダヤ人/教徒」の豊かな歴史を辿り、さらには、そこから逆照射して世界史そのものの見方をも深化させる。 |
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謎めいた存在ゆえに、陰謀論の格好の対象となるフリーメイスン。秘密に包まれたイニシエーションの実態とは?「自由、平等、兄弟愛」など、キリスト教ルーツの価値観を政治から切り離し、「普遍価値」として復権させることが彼らの使命である。アメリカ独立戦争、フランス革命から『シャルリー・エプド』事件まで、フリーメイスンの誕生と変容を辿りながら、西洋近代をもうひとつの視点からとらえなおす。 |
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賀茂道子『ウォー・ギルト・プログラム』法政大学出版局 占領期に連合国軍総司令部は、戦争の有罪性を日本人に認識させるための政策「ウォー・ギルト・プログラム」を実施した。のちに江藤淳らはこれを、侵略戦争観を日本国民に植え付けるためのもので、洗脳であるという立場をとった。本書は、膨大な資料に基づいてプログラムで最も重視された点や内容の変遷などを詳細に検証し、従来の説に異論を唱える意欲作である。 |
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小谷賢『インテリジェンスの世界史』岩波現代全書 諜報活動の主目的は、第二次大戦では対独・対日戦の勝利、冷戦期はソ連対策、冷戦後は湾岸戦争と同時多発テロを契機としてのテロ対策であった。国を越えた情報協力が緻密化しビッグデータの活用が拡大するなか、スノーデン事件は情報戦の危険性を警告している。通信傍受技術の飛躍的な発展と米英を中心とした通信傍受網の現代史。 |
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ヘルメス文書、グノーシス、カバラー、タロット、黒ミサ、そしてフリーメーソンやイリュミナティなどの秘密結社、ナチ・オカルティズムとユダヤ陰謀論…古代から現代まで、オカルトは人間の歴史と共にある。一方、「魔女狩り」の終焉とともに近代が始まり、その意味合いは大きく変貌する―。理性の時代を貫く非理性の系譜とは何か。世界観の変遷を闇の側からたどる、濃密なオカルティズム思想史! |
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“妖精”と呼ばれる人工生命体が労働現場で使役されている2001年の米国。妖精を憎悪する聖書原理主義者のケイシーはある日、変種の狐を連れた少女と出会う…。ケイシーたちの妖精排斥運動の裏に潜む遠大な謀略が緩やかに世界を変え、22世紀には亜人と呼ばれるようになった妖精たちが奴隷として労働し殺し合っていた。その代償に人類は“絶対平和”を確立したのだ。その後やがて訪れる人類繁栄の翳りまでを追う連作集。妖精使役の浸透の時代を描く表題作、SFマガジン読者賞受賞の陰謀譚「はじまりと終わりの世界樹」、亜人による娯楽としての代理戦争が過熱する「The Show Must Go On!」など、欲望の科学が倫理を崩壊させる歴史改変世界全5篇。 |
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ナチスのホロコーストを招いたと言われている、現在では「偽書」とされる『シオン賢者の議定書』。この文書をめぐる、文書偽造家にして稀代の美食家シモーネ・シモニーニの回想録の形をとった本作は、彼以外の登場人物のはほとんどが実在の人物という、19世紀ヨーロッパを舞台に繰り広げられる見事な悪漢小説(ピカレスクロマン)。祖父ゆずりのシモニーニの“ユダヤ人嫌い"が、彼自身の偽書作りの技によって具現化され、世界の歴史をつくりあげてゆく、そのおぞましいほど緊迫感溢れる物語は、現代の差別、レイシズムの発現の構造を映し出す鏡とも言えよう。 |
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古代、中世、近代、歴史の間に間に、偽書は突如現われる。発見され、執筆され、拡散される。それはパッチワークなのか、アンソロジーなのか、カノンとされたものが偽書となるとき、変容するのは歴史か解釈か。『椿井文書』(中公新書)が広く読まれるいま、問い返す。 |