柴宜弘『ユーゴスラヴィア現代史』岩波新書、1996年【43冊】
先日、倫理学者の先崎彰容さんが多様性についてテレビで語っていました。多種多様な人種の坩堝であるアメリカだからこそ多様性による統一を唱導する意味がある。姿かたちが均質な日本で同じことをすれば、わざわざマイノリティを掘り返すことで国家が分裂する方向にしか進まない。同じ言葉を用いても、その先に結ぶ国家像はまったく異なってしまう……頭の良いひとはこうも明快に語れるものかと感服してしまいました(笑)
わたしたちは多様性という言葉の響きに踊らされていないか。多様性はかならずしも良いものではなく、必要に迫られて選択せざるを得ないものなのではないか。そんなことを考えさせてくれるのが「7つの国境、6つの共和国、5つの民族、4つの言語、3つの宗教、2つの文字、1つの国家」という多様性の権化たるユーゴスラヴィアの存在です。チトーが大統領在任中はつかの間の平和を享受できましたが、彼の死後10年を経て国家の箍は緩みだし、その後凄惨な内戦に突入していきます。
多様性がとかく話題になる今、もう一度ユーゴスラヴィアの歴史に学んでみるべきでしょう。KEYBOOKの参考文献から42冊と、最後に1冊オマケを入れておきました。なお、著者の柴宜弘先生は本年5月にお亡くなりに。過去には、名作マンガ『石の花』の考証を担当されたりもしました。
KEYBOOK 柴宜弘『ユーゴスラヴィア現代史』岩波新書、1996年 民族、国家、宗教、言語……。独自の社会主義連邦の道を歩んできたユーゴの解体から三〇年。暴力と憎悪の連鎖が引き起こしたあの紛争は、いまだ過ぎ去らぬ重い歴史として、私たちの前に立ちはだかっている。内戦終結から現在にいたる各国の動向や、新たな秩序構築のための模索などについて大幅に加筆。ロングセラーの全面改訂版。 |
政治家に転身する以前,一九二五―二九年に芦田均は外交官としてトルコに駐在していた.本書はその経験をもとに,バルカン六国,すなわちトルコ,ルーマニア,ギリシア,ブルガリア,ユーゴスラヴィア,アルバニアの,自然・民族・政治・経済などを生きいきと描いたものであるが,いま読んでもなお新鮮である. |
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2.V・デディエ『チトーは語る』新時代社、1970年
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3.M・ジラス『新しい階級 共産主義制度の分析』時事通信社、1957年
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4.I・アンドリッチ『ドリナの橋』恒文社、1966年 ボスニア地方の美しい石橋「ドリナの橋」を舞台に、橋の上を去来する人間たちの運命を中世から400年にわたって、あたかも大河の流れのごとく、静かに、ゆったりとした筆致で描くノーベル賞作家イヴァン・アンドリッチの代表作。 |
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5.M・ジラス『スターリンとの会話』雪華社、1968年 | |
6.M・マルコヴィチ『実践の弁証法』合同出版、1970年 | |
7.I・アンドリッチ『ボスニア物語』恒文社、1972年
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8.岩田昌征『労働者自主管理 ある社会主義論の試み』紀伊國屋書店、1974年
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9.L・マテス『非同盟の論理 第三世界の戦後史』TBSブリタニカ、1977年
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10.E・カルデリ『自主管理社会主義と非同盟 ユーゴスラヴィアの挑戦』大月書店、1978年 | |
11.A・メイステル『自主管理の理念と現実 ユーゴの経験から』新曜社、1979年
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12.加藤雅彦『ユーゴスラヴィア―チトー以後』中公新書、1979年 | |
13.S・クリソルド編『ケンブリッジ版 ユーゴスラヴィア史』恒文社、1980年 ベルリンの壁を崩壊させた東欧民主化の波は、旧ユーゴスラヴィアをも直撃した。91年、スロヴェニア、クロアチア、ボスニア=ヘルツェゴヴィナ、マケドニアが独立を宣言したことで、事実上ユーゴスラヴィア社会主義連邦共和国は消滅した。残されたセルビア、モンテネグロは国名をユーゴスラヴィア連邦共和国として国際社会に復帰しようとしているが、前途は厳しい。定評あるケンブリッジ版の全訳に、最近13年間の詳細な年表と写真を加えた待望の増補版。 |
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14.M・ドルーロヴィチ『試練に立つ自主管理 ユーゴスラヴィアの経験』岩波現代選書、1980年 労働者自主管理のパイオニアであるユーゴ型社会主義の全容とその問題点を,ユーゴスラヴィアの理論家であり,すぐれたジャーナリストでもある著者が,外国人向けに平易に解説する.自主管理を考える上で最良の入門書である. |
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15.E・カルデリ『自主管理社会主義への道 カルデリ回想記』亜紀書房、1982年 | |
16.I・アンドリッチ『サラエボの女』恒文社、1982年 | |
17.笠原清志『自主管理制度の変遷と社会的統合 ユーゴスラビアにおける企業組織と労組機能に関する研究』時潮社、1983年 | |
18.E・カルデリ『民族と国際関係の理論』ミネルヴァ書房、1986年 革命家、政治家、理論家としてのカルデリの諸論考―多民族国家としてのユーゴスラヴィアの歴史的課題を提示する本書は、民族解放闘争、社会主義革命、スターリンとの対決を通して達成されたユーゴスラヴィアの「自主管理」社会主義を内外から支える連邦制度と非同盟外交に関するカルデリの卓越した理論的考察を収める。 |
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19.L・アダミック『わが祖国ユーゴスラヴィアの人々』PMC出版、1990年 19年ぶりの故郷スロヴェニア。輝くアドリア海、やさしい春の風、古き良き伝説、懐かしい母の姿…。そして独裁の嵐、ムッソリーニとヒットラーの登場。バルカンは風雲急を告げていた。1930年代のルポルタージュ文学の傑作。 |
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20.暉峻、小山、竹森、山中『ユーゴ社会主義の実像』リベルタ出版、1990年 | |
21.越村勲『東南欧農民運動史の研究』多賀出版、1990年 | |
22.柴宜弘『ユーゴスラヴィアの実験 自主管理と民族問題と』岩波ブックレット、1991年 「四つの言語、五つの民族、六つの共和国」をもつユーゴ。パルチザン戦争の中から生まれ、ソ連に対抗すべく選ばれた「自主管理」の理想は、いまや民族対立のはざまに消え去ろうとしている。独自の社会主義をめざした壮大な実験を描き、現在の危機の源流を探る。 |
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23.柴宜弘編『もっと知りたいユーゴスラヴィア』弘文堂、1991年 東欧で最も美しいといわれる古都が内戦で次々と破壊されている。今やユーゴは、民族独立か連邦制かの一大岐路に立たされている。本書は、歴史・経済・政治・民族・宗教・言語・社会・文化・芸術等からユーゴの全貌を初めて紹介する。詳細な年表・文献つき。 |
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24.D・マッケンジー『暗殺者アピス 第一次世界大戦をおこした男』平凡社、1992年 ユーゴスラヴィア誕生の契機となった第一次世界大戦前夜、統一を夢みながら暗躍したひとりの男がいた―。その名はアピス、かれは殉教者だったのか、あるいは殺人者だったのか。落日のユーゴスラヴィアの本質をさぐる問題の書。 |
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25.柴宜弘『ユーゴスラヴィアで何が起きているか』岩波ブックレット、1993年 世界の注目を集めているユーゴの紛争。自主管理と民族共存を掲げていたはずの国が、なぜこうなったのか。泥沼の争いに解決の道はあるのか。歴史的背景から社会主義の崩壊、そして現状までを、深く平易に解きあかす。 |
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26.山崎佳代子『解体ユーゴスラビア』朝日新聞社、1993年 民族主義の悪夢にとりつかれ、昨日までの友が、職場の仲間が、銃火を交じえる。家族引き裂かれ、人々は故郷を捨てた―。分離・独立の始まった1991年、ベオグラードの町角で、学園で、友人の客間で、悲劇のユーゴスラビアの声に耳を傾けた日本人女性の異色の記録。 |
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27.千田善『ユーゴ紛争 多民族・モザイク国家の悲劇』講談社現代新書、1993年 「民族浄化」という狂気のもと、蓄積された民族主義と武器が、かつての隣人を殺戮していく。わずか七三年で崩壊。戦争状態となった“自主管理・非同盟”の国家・旧ユーゴ。悲劇の歴史的背景を辿る。 |
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28.阿部望『ユーゴ経済の危機と崩壊』日本評論社、1993年 | |
29.M・パヴィチ『ハザール事典 男性版』東京創元社、1993年 30.M・パヴィチ『ハザール事典 女性版』東京創元社、1993年 歴史上から姿を消した謎の民族ハザールに関する事典の形をとった前代未聞の物語集。キリスト教、イスラーム教、ユダヤ教の交錯する45項目は、通して読むもよし、関連項目の拾い読みもよし、たまたま開いた項目を一つ読むもよし、読者の意のまま。男女両版の違いはわずか10行。どちらの版を選ばれますか?旧ユーゴスラヴィアNIN賞受賞。 |
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ボスニアの悲劇的内戦は不可避ではなかった。旧ユーゴスラビア地域の混沌たる戦争を歴史的に分析し洞察する、ユーゴ問題を理解するのに格好の入門書。国際社会は何をなすべきか。ユーゴ小事典、詳解ユーゴ年表を付す。 |
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32.M・グレニー『ユーゴスラヴィアの崩壊』白水社、1994年 旧ユーゴスラヴィアの紛争は「前近代の再燃」などではなく、我々の住む世界秩序の崩壊を体現した戦争だった――これは英国BBCジャーナリストが、生身の個人に焦点をあてながら「民族的憎悪」がつくられていくメカニズムを暴き、人間の愚かさと悲しさを描きつくす黙示録的ルポルタージュである。 |
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33.J・ゴイティソーロ『サラエヴォ・ノート』みすず書房、1994年 93年夏、サラエヴォを訪れそこで遭遇した破滅的な世界の光景を描き、大きな反響を得たルポルタージュをまとめたもの。この町の悲劇は終わっていない。包囲され、脅かされ、分割の危機に瀕している。文学者から世界への言葉。 |
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34.月村太郎『オーストリア=ハンガリーと少数民族問題 クロアティア人・セルビア人連合成立史』東京大学出版会、1994年 オーストリア=ハンガリー二重帝国統治下におけるクロアティアの政治動向について、少数民族問題に焦点をあてて考察する。ハンガリーとクロアティアとの関係を明らかにしながら、二重帝国の統治システムの特徴、問題を探る。 |
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35.中村義博『ユーゴの民族対立 平和の創成を求めて』サイマル出版会、1994年 なぜユーゴは解体し、悲劇的民族対立、紛争が起こっているのか。各国の対応はどうなのか。著者の在ユーゴ大使館勤務の体験と見聞をもとに、その後の動向を追跡し、旧ユーゴの民族和平を解く。ユーゴ問題に一考を促す。 |
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36.岩田昌征『ユーゴスラヴィア 衝突する歴史と抗争する文明』NTT出版、1994年
1960年代から四半世紀、実験社会ユーゴスラヴィアを追跡し続けてきた著者が、その崩壊と内戦の実態を克明に分析し、人々の深層にひそむ近代合理主義の抗争性と暴力性を追究する。自主管理社会主義の崩壊から多民族戦争へ。 |
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37.定形衛『非同盟外交とユーゴスラヴィアの終焉』風行社、1994年 「ケンカをしてはいけない。引き下がってもいけない。」モスクワに赴く大使にチトーはこう訓示した。社会主義の「長兄」ソ連に疎まれコミンフォルムから追放されたユーゴスラヴィアは、やがて自らの誇りと存続を賭して、大国による勢力圏分割や冷戦構造に抗すべく、非同盟外交の旗を敢然と掲げた。 |
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38.S・ドラクリッチ『バルカン・エクスプレス 女心とユーゴ戦争』三省堂、1995年 クロアチアに生まれ、ヨーロッパを中心に活躍する名ジャーナリストが、旧ユーゴに吹き荒れる戦争の嵐を、女性の感性で鋭くとらえ、戦争下に生きる人間の内面を繊細に描く。怖く、哀しく、美しい感動の24編。 |
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39.徳永彰作『モザイク国家ユーゴスラヴィアの悲劇』筑摩ライブラリー、1995年 民族国家という幻想か、宗教的狂信か、それとも貧困か。四つの言語・五つの民族・六つの共和国による連邦国家を築こうとしたチトーの試みはなぜ挫折したのか。戦争が宿命と化すに至った歴史を検証する。 |
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第二次世界大戦中に少年時代を送った旧ユーゴスラビアの作家ダニロ・キシュ。ユダヤ人であった父親は強制収容所に送られ、帰らぬ人となった。この限りなく美しい自伝的連作短編集は、悲劇をアイロニーと叙情の力で優しく包み込む。犬とこの上なく悲しい別れをする少年アンディはあなた自身でもあるのです。 |
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41.J・V・A・ファイン、R・J・ドーニャ『ボスニア・ヘルツェゴヴィナ史 多民族国家の試練』恒文社、1995年 民族と宗教が混在すると戦乱は避けられないのか。6~7世紀にスラヴ諸族がバルカン半島に到着した時代から社会主義ユーゴスラヴィアが崩壊するまでの歴史をたどり紛争の起源を探る。本邦初のボスニア通史。 |
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42.小山洋司『ユーゴ自主管理社会主義の研究 1974年憲法体制の動態』多賀出版、1996年 旧ユーゴスラヴィアの1974年憲法体制の成立過程、動態および解体過程を実証的に分析。聞き取り調査と観察、現地の言葉で書かれた文献を重視し、ユーゴの人々がどのように考え、実践したかを丹念に跡づけた。 |
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一九九一年四月。雨宿りをする一人の少女との偶然の出会いが、謎に満ちた日々への扉を開けた。遠い国からはるばるおれたちの街にやって来た少女、マーヤ。彼女と過ごす、謎に満ちた日常。そして彼女が帰国したとき、おれたちの最大の謎解きが始まる。覗き込んでくる目、カールがかった黒髪、白い首筋、『哲学的意味がありますか?』、そして紫陽花。謎を解く鍵は記憶の中に――。忘れ難い余韻をもたらす、出会いと祈りの物語。著者の出世作となった清新なボーイ・ミーツ・ガール・ミステリ。 |