ジョン・ランディス編『怖い家』エクスナレッジ、2021年【14冊】

KEYBOOK『怖い家』から14冊のご紹介です。日米のお化け屋敷を比較してみると、面白いことが分かります。かつての日本のお祭りには頻繁にお化け屋敷の小屋が掛かりましたが、あれは怪談話のワンシーンを見て回るもの。言うなれば、ウィンドウ・ショッピングと同じ体裁であり、小屋が呪われているわけではありません。それに対して、ディズニーランドの「ホーンテッドマンション」に代表される欧米のお化け屋敷は建物自体が禍々しき属性を帯び、ひとに襲いかかります。リチャード・マシスン地獄の家』やジェイ・アンソン『アミティヴィルの恐怖』、シャーリイ・ジャクスン『丘の屋敷』などにそうした傾向が顕著でしょう。

日本人にとって、家とは自然のなかに間借りしたもの。ゆえに、ひとならぬモノもときに通過してゆくというどこか鷹揚とした構え。それに比して、欧米人にとっての家とは、自然と我が身を截然と区別するための砦を意味します。ですから、安住・休息の場であるはずの家にひと以外のものが侵入するなど、欧米人には生理的嫌悪感以外のなにものでもありません。そんな西洋文化に影響された現代日本人もまた、松原タニシ事故物件怪談 恐い間取り』『事故物件怪談 恐い間取り2』、雨穴『変な家』等々を怖がり、楽しむようになった次第です。

本書、目玉は8「サーンリー・アビー」でしょうか。長らく名作と言われつつも、一度も翻訳がなかった(はず)。日本語初登場です。

 

怖い家

KEYBOOK

ジョン・ランディス編『怖い家エクスナレッジ、2021年

決して開けてはいけない扉がある――。エドガー・アラン・ポー『アッシャー家の崩壊』、H・P・ラヴクラフト『忌み嫌われた家』、シャーロット・P・ギルマン『黄色い壁紙』、ブラム・ストーカー『判事の家』……。怪奇ゴシック小説の古典から異色短編、ニューロティック・ホラーの傑作まで、名だたる巨匠たちが「家」にまつわる恐怖を紡いだ名作14編が、わかりやすく読みやすい新訳で登場! 唯一無二の幽霊屋敷小説アンソロジー

 

ポオ小説全集 1 (創元推理文庫 522-1)

1.エドガー・アラン・ポー「アッシャー家の崩壊」

収録本「同」、『ポオ小説全集1創元推理文庫、1974年

アメリカ最大の文豪であり、怪奇と幻想、狂気と理性の中に美を追求したポオ。彼は類なき短編の名手である。推理小説を創造し、怪奇小説・SF・ユーモア小説の分野にも幾多の傑作を残した彼の小説世界を全四巻に完全収録した待望の全集!

怪奇小説傑作集 1 英米編 1 [新版] (創元推理文庫)

2.エドワード・ブルワー=リットン「幽霊屋敷と幽霊屋敷ハンター」

収録本「幽霊屋敷」、『怪奇小説傑作集1 英米編1』、2006年

英米編1には、3つの願いが叶えられるという猿の手のミイラが老夫婦にもたらす悲劇を描いたW・W・ジェイコブズの「猿の手」をはじめ、全9編を収録した。

秘書綺譚~ブラックウッド幻想怪奇傑作集~ (光文社古典新訳文庫)

3.アルジャーノン・ブラックウッド「空き家」

収録本「同」、『秘書綺譚 ブラックウッド幻想怪奇傑作集光文社古典新訳文庫、2012年

芥川龍之介江戸川乱歩が絶賛したイギリスを代表する怪奇小説作家の傑作短篇集。古典的幽霊譚「空家」「約束」、吸血鬼と千里眼がモチーフの「転移」、美しい妖精話「小鬼のコレクション」、詩的幻想の結晶「野火」ほか、名高い主人公ジム・ショートハウス物を全篇収める。

イギリス怪談集 (河出文庫)

4.H・G・ウェルズ「赤の間」

収録本「同」、『イギリス怪談集河出文庫、2019年

居住者が次々と非業の死を遂げる家、乗客が連続して身投げする蒸気船、呪われた屋敷で見つかった驚愕の幽霊の正体…。ウェルズ「赤の間」、ティンパリー「ハリー」、ブラックウッド「空き家」、ストーカー「判事の家」など、怪談の本場イギリスから傑作だけを選りすぐった怪談アンソロジー!

ラヴクラフト全集 7

5.H・P・ラヴクラフト「忌み嫌われた家」

収録本「忌み嫌われる家」、『ラヴクラフト全集7創元推理文庫、2005年

二十世紀最後の怪奇小説作家H・P・ラヴクラフト。その全貌を明らかにする待望の全集は、ここに完結する。本巻には、栄華をきわめた都市の誕生から滅亡までを描く「サルナスの滅亡」、過去を探し求める男の遍歴「イラノンの探求」など十三編を収録。さらに巻末には初期作品五編、またラヴクラフトが書簡に書きとめた夢を抜粋した「夢書簡」を収めた。

よみがえる悪夢 ビアス傑作短編集 下

6.アンブローズ・ビアス「幽霊屋敷」

収録本「同」、『よみがえる悪夢 ビアス傑作短編集 下東京美術、1989年

カンタヴィルの幽霊/スフィンクス (光文社古典新訳文庫)

7.オスカー・ワイルド「カンタヴィルの幽霊」

収録本「同」、『カンタヴィルの幽霊/スフィンクス光文社古典新訳文庫、2015年

結婚を控え、手相占いに翻弄される「アーサー・サヴィル卿の犯罪」。生真面目で頑張り屋の幽霊が棲みつくお屋敷をアメリカ公使一家が買って一騒動「カンタヴィルの幽霊」…。長詩「スフィンクス」ほか短篇4作に、出獄したワイルドを迎えた親友の女性作家エイダの「回想」を含む佳作を収録。

The Dark Horse Book of Hauntings

8.パーシヴァル・ランドン「サーンリー・アビー」

収録本「Thurnley Abbey」、『The Dark Horse Book of Hauntings』Dark Horse Books、2003年

ドラキュラの客

9.ブラム・ストーカー「判事の家」

収録本「同」、『ドラキュラの客国書刊行会、1997年

村びとの制止を振りきって、自殺者が埋葬されるという十字路までやってきたわたしは、森の中の寂しい小径を登りはじめた。やがて開けた平地にたどりついたが、そこは墓地だった。そしてその時わたしの脳裏にひとつの叫びがこだました…「今夜はワルプルギスの夜だ!」恐怖の一夜を描いた表題作のほか、「判事の家」「牝猫」「ジプシーの予言」「鼠の埋葬」「血まみれの手の悪夢」など、戦慄と恐怖に彩られた傑作九篇を完全収録。本書は怪奇小説の不滅の古典『吸血鬼ドラキュラ』の作者唯一の短篇集である。

もっと厭な物語 (文春文庫)

10.シャーロット・パーキンス・ギルマン「黄色い壁紙」

収録本「同」、『もっと厭な物語』文春文庫、2014年

最悪の結末、不安な幕切れ、絶望の最終行。文豪・夏目漱石の不吉きわまりない掌編で幕を開ける「後味の悪い小説」アンソロジー。人間の恐布を追究する実験がもたらした凄惨な事件を描くC・バーカー「恐怖の探究」、寝室に幽閉される女性が陥る狂気を抉り出すC・P・ギルマンの名作「黄色い壁紙」他全十編。

M・R・ジェイムズ怪談全集〈2〉 (創元推理文庫)

11.M・R・ジェイムズ「呪われた人形の家」

収録本「同」、『M・R・ジェイムズ怪談全集2創元推理文庫、2001年

ジェイムズの怪談に描かれる恐怖はいずれも鮮烈で、幽霊や妖怪はその手で触れてきそうなほどになまなましい。第二巻には古書市で入手した日記が招く恐怖を描く傑作「ポインター氏の日記帳」、見えざるものが見える双眼鏡の怪「丘からの眺め」など後期作品に、本邦初訳作を加えた二十一を収録。眠れぬ夜には恐怖を心ゆくまでお愉しみあれ。

モーパッサン短編集(三) (新潮文庫)

12.ギ・ド・モーパッサン「オルラ」

収録本「同」、『モーパッサン短編集3新潮文庫、1971年

1870年に普仏戦争が勃発し、当時20歳のモーパッサンは召集され、つぶさにその目で戦争を見た。この経験は後年、数多くの戦争をテーマにした作品を書かせたが、本巻にはその戦争ものと、超自然現象に取材した怪奇ものを集めた。のんびりと釣りを楽しんでいた二人の市民がスパイに間違えられ無残にも銃殺されてしまうまでを坦々と描いた「二人の友」や「母親」「ミロンじいさん」など。

小泉八雲集 (新潮文庫)

13.小泉八雲「和解」

収録本「同」、『小泉八雲集新潮文庫、1975年

日常の生活、風俗習慣から、民話、伝説にいたるまで、近代国家への途上にある日本の忘れられた側面を掘り起して、古い、美しい、霊的なものを求めつづけた小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)。彼は、来日後、帰化して骨を埋めるまで、鋭い洞察力と情緒ゆたかな才筆とで、日本を広く世界に紹介した。本書には、「影」「骨董」「怪談」などの作品集より、代表作を新編集、新訳で収録した。

サキ短編集 (新潮文庫)

14.サキ「開けっぱなしの窓」

収録本「開いた窓」、『サキ短編集新潮文庫、1958年

ビルマで生れ、幼時に母と死別して故国イギリスの厳格な伯母の手で育てられたサキ。豊かな海外旅行の経験をもとにして、ユーモアとウィットの糖衣の下に、人の心を凍らせるような諷刺を隠した彼の作品は、ブラックユーモアと呼ぶにふさわしい後味を残して、読者の心に焼きつく。『開いた窓』や『おせっかい』など、日本のSFやホラー作品にも多大な影響をあたえた代表的短編21編。