優現書房セレクト「虹の書棚」2021年【24冊】

色別に硬軟織り交ぜて24冊のご紹介です。インディペンデントの書店さんでこの手の企画棚を見かけますが、思いも寄らぬ本同士が肩を並べるさまに新しい興味を掻き立てられることひとしきり。バリエーションを幅広く取り揃えました。ここから新たな読書分野を開拓していただければ、セレクト冥利に尽きます。

赤『詳注アリス』、600ページあるなかの(恐らく)200ページが注釈に割り当てられているという、文字通りの「完全決定版」です。解釈の難解なところが漏れなく解説されています。橙『多様性の科学』、一般人の理解をやや置いてけぼりにして、言葉だけが独り歩きしている感もある多様性。わたしたちの身の回りにある多様性を探ります。青『異界と日本人』、村を一歩出れば異界、峠の向こうは異界、橋を渡った先は異界、かつての日本人は至るところに異界を感じて暮らしていました。そこには一体何がいた/あったのでしょうか。

紫「人形つくり」、こちらはドーキーアーカイヴという、これまで翻訳がなかった傑作・異色作シリーズのなかの1冊になります。気に入ったかたはほかの作品にもチャレンジしてみてください。白「白の闇」、感染症によって人びとが失明する話なのですが、新型コロナの流行でにわかに売れ行きを伸ばした作品のひとつです。ジュリアン・ムーアマーク・ラファロの主演で映画『ブラインドネス』にもなっています。黒「旅する小舟」、こちらは絵本ですが、かなりヤバいですよ。間違いなく、今年から来年にかけて大ヒットする一品でしょう。手元に1冊あって決して損をさせない作品です。

 

赤の棚

詳注アリス 完全決定版

たそがれにまにあえば 赤井さしみ作品集 (HARTA COMIX)

反逆の神話〔新版〕 「反体制」はカネになる (ハヤカワ文庫NF)

マーティン・ガードナー、ルイス・キャロル詳注アリス 完全決定版亜紀書房、2019年

キャロルの手紙や日記、歴史資料や学問的解釈etc…を駆使して付けられた、300以上の注釈を収録。これまで世界中の画家が描いてきた100枚以上の「アリス」挿絵を精選収録。公刊された「アリス」からは削除された幻の「かつらをかぶった雀蜂」挿話を復元収録。テニエルの貴重な鉛筆ラフスケッチも収録。

赤井さしみ『たそがれにまにあえば 赤井さしみ作品集』HARTA COMIX、2021年

ネコミミメイドとふしぎなへびが、未知の世界へご招待。あなたもどこかで見た事あるかも? かわいいネコミミ女の子に、よく喋るへびと、奇妙なうねうね。ゆるやかな想像でつながっていく、脱力系ショートショートコミック! 個人誌を中心に活動する作家・赤井さしみが書き連ねてきた掌編が、待望の単行本化です。読み進めるたびくせになる唯一無二のショートショートトリップを、どうぞお楽しみください。丈夫なハードカバー仕様で、一生モノの一冊です。

 ジョセフ・ヒース、アンドルー・ポター『反逆の神話 「反体制」はカネになる』ハヤカワ文庫NF、2021年

ビートニク、ヒッピー、パンク。50年代から今日まで続くカウンターカルチャーの思想は、体制への反逆を掲げながらその実、快楽と「差異」への欲望を煽ってカネを生み、資本主義を肥らせているにすぎない――実効性なき「反体制」の欺瞞を哲学×経済学の見地から暴き出すとともに、ルールや規制によって社会を具体的に変えることを追求する里程標的名著。

 

橙の棚

ウルトラマンと戦後サブカルチャーの風景

多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織

伏見稲荷大社 (日本の古社)

福嶋亮大ウルトラマンと戦後サブカルチャーの風景』PLANETS/第二次惑星開発委員会、2018年

昭和が生んだ最大のヒーロー「ウルトラマン」。高度成長期の〈風景〉を取り込みながら、特撮というテクノロジーによって戦後日本人の願いを具現化しつづけた「光の巨人」は、先人たちから何を受け継ぎ、ポスト平成の現代に何を遺したのか——? 『ウルトラQ』から『80』までの昭和ウルトラマンシリーズを入り口に、戦争と映像の世紀だった20世紀の本質を徹底分析。注目の文芸評論家による、映像文化史・特撮論の決定版が、ついに刊行!

マシュー・サイド『多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織ディスカヴァー・トゥエンティワン、2021年

経営者からメディア、著名人までもが大絶賛! なぜグッチは成功しプラダは失敗したのか。なぜルート128はシリコンバレーになれなかったのか。オックスフォード大を主席で卒業した異才のジャーナリストが、C I A、グローバル企業、登山隊、ダイエットなど、あらゆる業界を横断し、多様性の必要性を解き明かす。自分とは異なる人々と接し、馴染みのない考え方や行動に触れる価値とは?

三好和義他『伏見稲荷大社淡交社、2003年

町角の祠や屋敷神としてあまねく親しまれるお稲荷さん。そうした稲荷信仰の発祥である総本宮を、みずみずしい写真と解説で紹介します。

 

黄の棚

人喰い (亜紀書房翻訳ノンフィクションシリーズIII-8)

日本の装飾と文様

ひとつむぎの手(新潮文庫)

カール・ホフマン人喰い亜紀書房、2019年

一九六一年、大財閥の御曹司が消息を絶った。首狩り族の棲む熱帯の地で。全米を揺るがした未解決事件の真相に迫り、人類最大のタブーに挑む衝撃のノンフィクション!

海野弘日本の装飾と文様』パイインターナショナル、2018年

シルクロードを越えてはるかな異国からやってきたエキゾティックな唐草文様、天平時代の華やかな仏教装飾、雅びな源氏物語の文様世界、戦国の武将たちの大胆な意匠…。美しい日本デザインの歴史を豊富なカラー・ビジュアルで辿る決定版!

知念実希人ひとつむぎの手新潮文庫、2021年

大学病院で激務に耐えている平良祐介は、医局の最高権力者・赤石教授に、三人の研修医の指導を指示される。彼らを入局させれば、念願の心臓外科医への道が開けるが、失敗すれば……。キャリアの不安が膨らむなかで疼く、致命的な古傷。そして緊急オペ、患者に寄り添う日々。心臓外科医の真の使命とは、原点とは何か。リアルな現場で、命を縫い、患者の人生を紡ぐ熱いドラマ。傑作医療小説。

 

緑の棚

日本神話と同化ユダヤ人

春を背負って (文春文庫)

樹木たちの知られざる生活 森林管理官が聴いた森の声 (ハヤカワ文庫NF)

田中英道日本神話と同化ユダヤ人勉誠出版、2020年

歴史の遺物の形象に、意味を探る―ほとんど文献を欠いた考古学研究のための方法論の一つである、形象学(フォルモロジー)。そこには図像的、考古学的な意味だけではなく、それ以上の歴史的意味、解釈学的意味がある。美豆良をつけたユダヤ人埴輪により、日本に多くのユダヤ人が来ており、日本文化に多大な貢献をしたことが判明した。紐状の縄文で、渦・水流を縦横無尽に作った土器からは、水に対する信仰があったことを解明する。魅力的な8つの論考により、日本考古学・歴史学に大きな問題提起をする快著。

笹本稜平『春を背負って』文春文庫、2014年

先端技術者としての仕事に挫折した長嶺亨は、山小屋を営む父の訃報に接し、脱サラをして後を継ぐことを決意する。そんな亨の小屋を訪れるのは、ホームレスのゴロさん、自殺願望のOL、妻を亡くした老クライマー…。美しい自然に囲まれたその小屋には、悩める人々を再生する不思議な力があった。心癒される山岳小説の新境地。

ペーター・ヴォールレーベン『樹木たちの知られざる生活 森林管理官が聴いた森の声』ハヤカワ文庫NF、2018年

最新の科学と長年の観察が明かす木々の驚くべき社会的な営みとは? 動物のようには動かず、声を出さないため、モノ扱いされることもある樹木。しかし、樹木には驚くべき能力と社会性があるのだ。子どもを教育し、コミュニケーションを交わし、ときに助け合う。その一方で熾烈な縄張り争いをもくり広げる。音に反応し、数をかぞえ、長い時間をかけて移動さえする。ドイツで長年、森林の管理をしてきた著者が、豊かな経験と科学的事実をもとに綴る樹木への愛に満ちた世界的ベストセラー!

 

青の棚

異界と日本人 (角川ソフィア文庫)

星の王子さま (集英社文庫)

プルーストとイカ―読書は脳をどのように変えるのか?

小松和彦異界と日本人角川ソフィア文庫、2015年

古来、私たちは未知のものへの恐れを、物語に託し、語り伝えてきた。日常の向こう側に広がる「異界」では、陰陽師安倍晴明が悪霊たちと戦い、狐は美女に姿を変え、時期の流れさえ歪む。源義経の「虎の巻」、大江山の鬼退治伝説、浦嶋太郎の龍宮伝説、俵藤太伝説、七夕伝説…。いまも語り継がれる絵巻に描かれた異界物語を読み解きながら、日本人の隠された精神性に迫る。妖怪研究の第一人者による「異界論」の決定版。

サン・テグジュペリ星の王子さま集英社文庫、2006年

沙漠の真っ只中に不時着した飛行士の前に、不思議な金髪の少年が現れ「ヒツジの絵を描いて…」とねだる。少年の話から彼の存在の神秘が次第に明らかになる。バラの花との諍いから住んでいた小惑星を去った王子さまはいくつもの星を巡った後、地球に降り立ったのだ。王子さまの語るエピソードには沙漠の地下に眠る水のように、命の源が隠されている。生きる意味を問いかける永遠の名作の新訳。

メアリアン・ウルフ『プルーストとイカ 読書は脳をどのように変えるのか?』インターシフト、2008年

古代の文字を読む脳から、ネットの文字を読む脳まで、ディスレクシア(読み書き障害)から、読書の達人まで、脳科学 x心理学 x教育学 x言語学 x文学x考古学をめぐり、解き明かす。

 

紫の棚

江戸川乱歩大事典

人形つくり (ドーキー・アーカイヴ)

落合教幸他『江戸川乱歩大事典勉誠出版、2021年

死後50年を経て、未だ我々を魅了し続ける乱歩の創作・思考の背景にあるものはいったい何か。乱歩の形成した人的ネットワーク、そして彼の生きた戦前戦後という時代と文化事象、出版文化の展開とともに花開いた様々な雑誌メディアなど、総勢70人に及ぶ豪華執筆陣のナビゲートにより乱歩ワールドの広がりを体感できるエンサイクロペディア、ついに公刊。

サーバン『人形つくり国書刊行会、2016年

田舎屋敷に家庭教師として雇われた女子大生が謎めいた子供たちと過ごす夏休みは、次第に奇怪な様相を帯びていく……古代異教世界が顕現する「リングストーンズ」(1951年)。女子寄宿舎学校を舞台に、少女が人形つくりが趣味の青年と出会い、やがて彼の人形のモデルになる。しかし、その青年の真の正体とは……服従と束縛の快楽が横溢する怪異譚「人形つくり」(1953年)。繊細で喚起力の強い文体を通じて、徹底した被支配関係から生じる魅惑と恐怖が織りなす荒々しいマゾヒズム的快感が描写される、知られざる英国作家サーバンによる幻想中篇を2篇収録。

キム・スヒョン私は私のままで生きることにしたワニブックス、2019年

私たちはみんな、ヒーローになること、特別な何者かになることを夢見ていた。だけど今では、世界どころか自分を救うことに必死な大人になってしまった。中途半端な年齢、中途半端な経歴、中途半端な実力をもつ、中途半端な大人になった私たちは、誰もが大人のふりをしながら生きている。本書には、今を生きる普通の人へのいたわりと応援を詰め込んだ。何が正解なのかわからない世の中で、誰のまねもせず、誰もうらやまず、自分を認めて愛する方法を伝えたい。

 

白の棚

ドリフトグラス (未来の文学)

白の闇 (河出文庫)

ブランクスペース(1) (ヒーローズコミックス ふらっと)

サミュエル・R・ディレイニードリフトグラス国書刊行会、2014年

アメリカの神話的SF作家サミュエル・R・ディレイニーの全中短篇を網羅する決定版コレクションがついに登場!名作「時は準宝石の螺旋のように」「スター・ピット」の他、代表作にして最高傑作「エンパイア・スター」を新訳で収録。華麗なる文体で彫刻された詩と思索と愛と暴力の結晶体、全17篇(新訳5篇・本邦初訳2篇)。

ジョゼ・サラマーゴ白の闇河出文庫、2020年

「いいえ、先生、わたしは眼鏡もかけたことがないのです」。突然の失明が巻き起こす未曾有の事態。運転中の男から、車泥棒、篤実な目医者、美しき娼婦へと、「ミルク色の海」が感染していく。善意と悪意の狭間で人間の価値が試される。ノーベル賞作家が、「真に恐ろしい暴力的な状況」に挑み、世界を震撼させた傑作長篇。

熊倉献『ブランクスペース』ヒーローズコミックス ふらっと、2021年

ある雨の日、女子高生の狛江ショーコは、同級生の片桐スイが不思議な力を持っていることを知る。ふたりの出逢いをきっかけに、やがてひとつの街を巻き込んだ『空白』をめぐる物語が動き出す―――。

 

黒の棚

旅する小舟

ヒトラーの絞首人ハイドリヒ

もうすぐ絶滅するという紙の書物について

ペーター・ヴァン・デン・エンデ『旅する小舟求龍堂、2021年

これは小さな紙の舟が大海原を超えていく旅を描いた、文字のない絵本。鬱蒼と生い茂る森を抜け、葉っぱの影をくぐり、氷山の間を、魚たちの集団を通り抜け、嵐や大波に飲まれそうになりながら、恐ろしい海の怪物たちの間も抜けて進む小舟。小さな舟はいつも独りぼっち。でも、独りだからこそ、波の上にも下にも広がる驚異的な自然の美しさ、素晴らしさに気づくことができる。大人の読者も子どもの読者も、成長することや学ぶこと、そして人生のアップダウンや苦楽についても、この静かで力強い物語から大いなるインスピレーションを得られるだろう。

ロベルト・ゲルヴァルト『ヒトラーの絞首人ハイドリヒ白水社、2016年

ホロコーストの悪名高い主犯の生涯―トーマス・マンに「絞首人」と呼ばれ、「ユダヤ人絶滅政策」を急進的に推進した男の素顔に迫る。最新研究を踏まえた、初の本格的な評伝。

ウンベルト・エーコジャン・クロード・カリエールもうすぐ絶滅するという紙の書物について』CCCメディアハウス、2010年

インターネットが隆盛を極める今日、「紙の書物に未来はあるのか?」との問いに、「ある」と答えて始まる対談形式の文化論。東西の歴史を振り返りつつ、物体・物質としての書物、人類の遺産としての書物、収集対象としての書物などさまざまな角度から「書物とその未来について」、老練な愛書家2人が徹底的に語り合う。博覧強記はとどまるところを知らず、文学、芸術、宗教、歴史と、またヨーロッパから中東、インド、中国、南米へとさまざまな時空を駆けめぐる。