北村薫・宮部みゆき編『名短篇、さらにあり』ちくま文庫、2008年【12冊】
北村薫・宮部みゆき編『名短篇、さらにあり』から12冊のご紹介です。巻末に一応出典の情報は載っているのですが、それでも原書を見つけにくく、なかなか難儀しました。それだけ、これらの作品たちは、目下流通している本のなかから適当にチョイスしたものではない、知るひとぞ知る通好みのものと言えるでしょう。
5「押入れの中の鏡花先生」、こちらの作品で十和田操先生に興味をもち、原書を買い求めようとしても古書価格は1万円を超えていますのでここはぐっとガマンの子(『百年文庫 隣』に「判任官の子」が収録されています、ご参考までに)。7「紅梅振袖」、いまどきの若い方で昭和時代にノスタルジーを感じているひとがいたら、川口松太郎はオススメです。胸の奥がじんわりと温かくなってきます。8「家霊」、女性には一度は読んでもらいたい作品。昨今、フェミニズムだのジェンダーだのがが喧しいですが、女性の本能のようなものがこの作品には浮き彫りにされています。有り体に言えば、女性には崇拝者がかならずひとりは必要なのです。
KEYBOOK 北村薫・宮部みゆき編『名短篇、さらにあり』ちくま文庫、2008年 『名短篇、ここにあり』では収録しきれなかった数々の名作。人間の愚かさ、不気味さ、人情が詰った奇妙な12の世界。舟橋聖一「華燭」、永井龍男「出口入口」、林芙美子「骨」、久生十蘭「雲の小径」、十和田操「押入の中の鏡花先生」、川口松太郎「不動図」、吉屋信子「鬼火」、内田百〓(けん)「とほぼえ」、岡本かの子「家霊」、岩野泡鳴「ぼんち」など。文庫オリジナルでご堪能下さい。 |
1.舟橋聖一「華燭」 収録本『新潮日本文学 29 舟橋聖一集』新潮社、1971年 |
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2.永井龍男「出口入口」 注)タイトルは似ていますが、永井龍男(1991)『一個・秋・その他』講談社文芸文庫には収録されていませんからご注意ください。 |
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3.林芙美子「骨」 収録本『新潮日本文学 22 林芙美子集』新潮社、1971年 |
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4.久生十蘭「雲の小径」 収録本『墓地展望亭・ハムレット 他六篇』岩波文庫、2016年 現世では死者となって社会から身を隠し純愛を貫く物語「墓地展望亭」「湖畔」、人間心理の深奥に迫る名作「ハムレット」、巧みな語りにサスペンスが湛えられた掌篇「骨仏」など、“小説の魔術師”久生十蘭(1902‐57)の、彫琢につぐ彫琢によって磨きぬかれた掌篇、短篇あるいは中篇を精選。「生霊」「雲の小径」「虹の橋」「妖婦アリス芸談」を併収。 |
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5.十和田操「押入れの中の鏡花先生」 収録本『十和田操作品集』冬樹社、1970年 |
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6.川口松太郎「不動図」 掌にのせて、いつまでも楽しみたい! 新進作家のみずみずしい作品から老練作家の滋味あふれる文章まで30編の掌編小説を収録。 |
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7.川口松太郎「紅梅振袖」 収録本『人情馬鹿物語』光文社時代小説文庫 思いを寄せた女性に着てほしくて華麗な振袖を縫い上げた職人、自分のためにお店のお金を横領した若者を無罪放免してもらうために奔走する花魁、親の借金のために請負師の妾になった寄席の娘と貧乏芸人の恋の行方―私利や損得を顧みずに人間の情に生きた「人情馬鹿」たちを、江戸っ子気質と江戸の言葉が生きていた大正期の東京下町を舞台に綴った名作十二話。 |
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8.吉屋信子「鬼火」 収録本『鬼火・底のぬけた柄杓』講談社文芸文庫、2003年 焼跡の一軒家で起きた貧しい女の悲惨な自殺を凄艶な美へと昇華させた女流文学者賞受賞作「鬼火」、隠れ切支丹の遺児であった修道女の謎めく焼死を追った「童貞女昇天」等、幻想的短篇七作に、薄幸な俳人の生涯を意欲的に掘り起こし、温かい筆致で描く「底のぬけた柄杓」等、俳人論三篇を併録。少女小説、新聞小説の世界で一時代を劃した吉屋信子のもうひとつの魅力をあますところなく示す精選作品集。 |
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9.内田百閒「とほぼえ」 夕闇が降り、家路にむかう男たちの影もまばらになったが、夫はまだ帰らない。炭鉱労働者の家族を襲った秋の夜の哀しみ(ロレンス『菊の香り』)。友人を見舞って帰る夜、灯りのついた店に入ると、どこからか犬の遠吠えが…。死の影せまる不安な時間(内田百〓(けん)『とおぼえ』)。嫁に行った娘が他界した後、残された婿、孫娘と暮らしてきた登利はある重大な決意をする。家族のために自分を擲ってきた女性の鮮やかな心の景色(永井龍男『冬の日』)。胸底にひそむ影の来歴。 |
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10.岡本かの子「家霊」 収録本『食魔 岡本かの子食文学傑作選』講談社文芸文庫、2009年 毎晩どじょう汁をねだりに来る老彫金師とどじょう屋の先代の女将の秘められた情念を描いた「家霊」。北大路魯山人をモデルにしたといわれる、食という魔物に憑かれた男の鬼気迫る物語「食魔」ほか、昭和の初めに一家で渡欧した折の体験談、食の精髄を追求してやまないフランス人の執念に驚嘆した食随筆など、かの子の仏教思想に裏打ちされた「命の意味」を問う、食にまつわる小説、随筆を精選した究極の食文学。 |
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11.岩野泡鳴「ぼんち」 収録本『 明治文學全集 71 岩野泡鳴集』筑摩書房、2013年
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12.島崎藤村「ある女の生涯」 藤村の代表的長編の多くはその家族をモチーフとし、この短編もその系統になる。精神を病んだ未亡人のおげんは作者の姉がモデル。妄想と幻覚に苦しむおげんは、60歳にして婚家を出ようと思い立つ。 |
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