金原瑞人編「Fat but/and Fun」BOOKMARK、19号、2021年【17冊】

フリーペーパー「BOOKMARK」から16冊のご紹介です。このたびこちらのフリーペーパーの存在に初めて気づき(不勉強でお恥ずかしい)パラパラと読んでみたところ、レコメンドされている本たちの非常に魅力的なこと。編集は英文学者の金原瑞人先生。『文学効能事典 あなたの悩みに効く小説』や『天才たちの日課』など翻訳を手がけられた作品多数。

特集の「Fat but/and Fun」は「分厚い けれど/から 面白い」の意味でしょう。リストアップされた本はどれも上下巻だったり、単巻でも500ページ以上あったりする重厚な作品ばかり。こうした本は、年末年始でまとまった時間があるときにこそ挑戦してみたいもの。顔ぶれも、6『ホワイトティース』なんてごく最近話題になった本から、9『戦争と平和』なんて古典的名作まで、目配りが大変広い。新刊にも古典にも食指が動く気が多いわたしですが、英語から日本語に再翻訳したという8「源氏物語 A・ウェイリー版」なんかいいなあ、と。

なお蛇足ながら、わたしからはオススメ長編としてキング『ザ・スタンド』やメルヴィル白鯨』を挙げさせていただきます。

 

小説『火の鳥』大地編 (上)

Special Guest:桜庭一樹

桜庭一樹手塚治虫小説『火の鳥』大地編朝日新聞出版、2021年

1938年、日本占領下の上海。若く野心的な關東軍将校の間久部緑郎は、中央アジアシルクロード交易で栄えた楼蘭に生息するという、伝説の「火の鳥」の調査隊長に任命される。資金源は、妻・麗奈の父で、財閥総帥の三田村要造だという。困難な旅路を行く調査隊は、緑郎の弟で共産主義に共鳴する正人、その友で実は上海マフィアと通じるルイ、清王朝の生き残りである川島芳子、西域出身の謎多きマリアと、全員いわく付き。そこに火の鳥の力を兵器に利用しようともくろむ猿田博士も加わる。苦労の末たどり着いた楼蘭で明らかになったのは、驚天動地の事実だった……。漫画『火の鳥』や手塚作品に数多く登場する猿田博士やロック、マサトたちと、東條英機石原莞爾山本五十六ら実在の人物たちが動かしていく! 朝日新聞「be」連載時から話題沸騰。大幅な加筆による完全版!

三体

 1.劉慈欣『三体早川書房、2019年

物理学者の父を文化大革命で惨殺され、人類に絶望した中国人エリート科学者・葉文潔(イエ・ウェンジエ)。失意の日々を過ごす彼女は、ある日、巨大パラボラアンテナを備える謎めいた軍事基地にスカウトされる。そこでは、人類の運命を左右するかもしれないプロジェクトが、極秘裏に進行していた。数十年後。ナノテク素材の研究者・汪森(ワン・ミャオ)は、ある会議に招集され、世界的な科学者が次々に自殺している事実を告げられる。その陰に見え隠れする学術団体“科学フロンティア”への潜入を引き受けた彼を、科学的にありえない怪現象“ゴースト・カウントダウン”が襲う。そして汪森が入り込む、三つの太陽を持つ異星を舞台にしたVRゲーム『三体』の驚くべき真実とは?本書に始まる“三体”三部作は、本国版が合計2100万部、英訳版が100万部以上の売上を記録。翻訳書として、またアジア圏の作品として初のヒューゴー賞長篇部門に輝いた、現代中国最大のヒット作。

セカンドハンドの時代――「赤い国」を生きた人びと

2.スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ『セカンドハンドの時代 「赤い国」を生きた人びと岩波書店、2016年

「思想もことばもすべてが他人のおさがり、なにか昨日のもの、だれかのお古のよう」私たちは「使い古しの時代」を生きているのか―21世紀の国家像をあぶり出す、ポスト・ソ連に暮らす人びとへのインタビュー集「ユートピアの声」五部作、完結編にして集大成。2015年ノーベル文学賞作家、最新作。2013年メディシス賞(エッセイ部門)受賞(フランス)、2014年ボリシャーヤ・クニーガ賞(読者投票部門)1位(ロシア)、2015年リシャルト・カプシチンスキ賞受賞(ポーランド)。

風と共に去りぬ(一) (岩波文庫)

3.マーガレット・ミッチェル風と共に去りぬ岩波文庫、2015年

一八六一年四月、南部ジョージア州。大農園主の娘として育った一六歳のスカーレットはある日、生まれて初めて試練に直面する…。南北戦争とその後の混乱の時代を、強靱な意思の力で生き抜いてゆくスカーレットの人生と激しい愛を描いた長編小説。新訳。作品に多角的に迫る「解説」、物語の背景がみえてくるていねいな注、関連略年表付。 

白い鶴よ、翼を貸しておくれ

4.ツェワン・イシェ・ペンバ『白い鶴よ、翼を貸しておくれ』書肆侃侃房、2020年

1925年、若きアメリカ人宣教師スティーブンス夫妻は、幾多の困難を乗り越え、チベット、ニャロン入りを果たした。現実は厳しく、布教は一向に進まなかったが、夫妻は献身的な医療活動を通じて人びとに受け入れられていく。やがて生まれた息子ポールと領主の息子テンガは深い友情で結ばれる。だが、穏やかな日々も長くは続かない。悲劇が引き起こす怨恨。怨恨が引き起こす復讐劇。そして1950年、新たな支配者の侵攻により、人びとは分断され、緊迫した日々が始まる。ポールもテンガもその荒波の中、人間の尊厳を賭けた戦いに身を投じてゆく。亡命チベット人医師が遺したチベット愛と苦難の長編歴史小説

黒い兄弟(上)

5.リザ・テツナー黒い兄弟あすなろ書房、2021年

ミラノの煙突掃除の少年たちがつくった秘密結社「黒い兄弟」。彼らの友情を描いた不朽の名作が、装い新たに新登場!
日照りの年、ジョルジョのもとに突然あらわれたほお傷の男、アントニオ・ルイニ。それは、ミラノからアルプスまでその名をとどろかせる恐ろしい奴隷商人だった…。アニメ世界名作劇場ロミオの青い空」(NETFLIX他にて配信中)原作本。

ホワイト・ティース(上) (中公文庫 ス 10-1)

6.ゼイディー・スミス『ホワイト・ティース』中公文庫、2021年

“21世紀のディケンズ"と称されたジャマイカ系イギリス人作家が、ロンドンの移民家族をまきこむ、歴史、信条、言語、世代、遺伝子の差違が招いた悲喜劇を、過激でユーモラスに描いた傑作長編小説。分断と不寛容の広がる時代に新たな光を放つ、渾身の大作。待望の文庫化。

スキャット

7.カール・ハイアセンスキャット理論社、2010年

ミセス・スターチ、学園内でもっとも恐れられている生物の先生が、ブラックヴァイン湿地での校外学習以降、姿を消してしまった。学園長からは、先生が家族の事情により、当分の間授業を休むことになったと説明があるが、ニックとマータはどうにも釈然としない。二人はクラスの問題児ドゥエーンがスターチ先生の失踪に、なにか関係しているのではと疑っていたのだが……。事態は二人の想像をはるかに超えて意外な展開に。謎の自然保護活動家、歌う代用教師、悪徳石油業者…、フロリダの雄大な自然を舞台に、絶滅の危機に瀕する野生のパンサーと強烈に個性的な大人たちの中で、ニックとマータの冒険がはじまる。 

源氏物語 A・ウェイリー版1

8.紫式部源氏物語 A・ウェイリー版』左右社、2017年

100年前、シェイクスピアの国の人びとを涙させたベストセラーがドラマチックによみがえる!世界中で読まれたウェイリー源氏物語を、読みやすい日本語に再翻訳(完訳・全4巻)

戦争と平和1 (光文社古典新訳文庫)

9.トルストイ戦争と平和光文社古典新訳文庫、2020年

始まりは1805年夏、ペテルブルグでの夜会。全ヨーロッパ秩序の再編を狙う独裁者ナポレオンとの戦争(祖国戦争)の時代を舞台に、ロシア貴族の興亡から大地に生きる農民にいたるまで、国難に立ち向かうロシアの人びとの姿を描いたトルストイの代表作。

リラとわたし ナポリの物語1 (早川書房)

10.エレナ・フェッランテ『リラとわたし ナポリの物語早川書房、2017年

小学校で出会った、リラとわたし。反抗的で横暴で痩せっぽちなリラ。でも、ずば抜けた頭脳を持つ聡明なリラ―。一九五〇年代ナポリ。時に暴力的な下町で、少女ふたりは友人となり、嫉妬や憧れを投げかけ合いながら大人になっていく。戦後のイタリア社会を舞台に、猛々しく奔放なリラと本好きのエレナの複雑な絆を描いた世界的ベストセラー。

世界収集家

11.イリヤ・トロヤノフ『世界収集家早川書房、2015年

やがて入り江が見えた。両手が水をすくうように、膨らんだ帆が空気をすくった。すでに鼻がかいでいたものが、目に見えてきた。最初はチョウジ油をすりこんだ望遠鏡を通して―大英帝国の軍人、リチャード・フランシス・バートン。インドでは様々な言語と文化に浸り、アラビアではメッカ巡礼をなしとげ、アフリカではナイルの源泉を追い求める。『千夜一夜物語』の翻訳者としても知られる桁外れの人物の生涯を、世界的に評価されるブルガリア系ドイツ人作家が、事実と虚構を織り交ぜて詩情ゆたかに描き上げた傑作長篇小説。ライプツィヒ・ブックフェア賞受賞作。

兄弟

12.余華『兄弟』アストラハウス、2021年

ノーベル文学賞候補として常にその名が挙げられる、中国文壇の大御所・余華。その代表作として名高い世界的ベストセラー『兄弟』が、満を持して復刊。文化大革命と開放経済、二つの時代の狂気をドラマチックに爆走する当代の傑作。カフカなど海外文学の影響を受けて人の世の不確実性を描き、そのあたらしさと実験性をもって中国文壇で「先鋒派」と呼ばれた余華。その代表作である『兄弟』は、日本では文藝春秋より2008年に単行本、2010年に文庫本が、それぞれ泉京鹿訳で「文革篇」「開放経済篇」として上下2巻で刊行されましたが、その後長く入手困難となっていました。ファンのあいだで伝説になっていた本書が、このたび、全1巻・1000ページに迫る大著として、アストラハウスより待望の復刊を果たします。

鯨 (韓国文学のオクリモノ)

13.チョン・ミョングァン『晶文社、2018年

誰が知るだろう、この物語のすべてが一編の復讐劇でもあるということを―。一代にして財を成し、あまたの男の運命をくるわせた母クムボク。並外れた怪力の持ち主にして、人ならざるものと心を通わし、煉瓦づくりに命を賭した娘チュニ。巨大な鯨と煉瓦工場、華やかな劇場をめぐる壮絶な人生ドラマが幕を開ける。ストーリーテラーとして名高い著者が、破壊的なまでに激しく生々しい人間の欲望を壮大なスケールで描き出した一大叙事詩

アメリカーナ 上 (河出文庫)

14.チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ『アメリカーナ河出文庫、2019年

高校時代に永遠の愛を約束したイフェメルとオビンゼ。アメリカ留学を目指す二人の前に、現実の壁が立ちはだかる。オビンゼと離れてアメリカに渡ったイフェメルを待っていたのは、階級、イデオロギー、人種で色分けされた、想像すらしたことのない世界だった。世界を魅了する物語作家が三つの大陸を舞台に描く傑作長篇。

オリシャ戦記PART1 血と骨の子

15.トミ・アデイェミ『オリシャ戦記』静山社、2019年

オリシャ王国―そこではかつて魔師と魔力を持たない者たちが共存していた。しかし、国王サランは“襲撃”を行い、国じゅうから魔法を一掃した。ゼリィは、白い髪をもつ魔師の子だったが、“襲撃”で母を殺され、魔力も失った。17歳になったゼリィはある日、市場で兵士に追われている一人の少女を救出する。それは、冷酷な国王のもとから逃げ出してきた、王女アマリだった!魔法がよみがえりはじめた王国をめぐり、ゼリィとアマリ、そして、彼女たちを追走する王子イナンが、スリリングな冒険を繰り広げる。アフリカ神話と魔法の世界が融合した壮大なファンタジー第一部。

人間の絆(上)(新潮文庫)

16.サマセット・モーム人間の絆』、2021年

幼くして両親を失い、牧師である伯父に育てられた青年フィリップ。不自由な足のために劣等感にさいなまれて育ったが、いつしか信仰心を失い、芸術に魅了されてパリに渡る。しかし若き芸術家仲間と交流する中で、自らの才能の限界を知り、彼の中で何かが音を立てて崩れ去る。やむなくイギリスに戻り、医学を志すことになるのだが……。誠実な魂の遍歴を描いたS・モームの決定的代表作を新訳。