優現書房セレクト「狼男の集い」2021年【18冊】

このたびは物語のなかの狼男から、狼男とは何かというその正体に迫る人文書まで18冊をご紹介します。

藤子不二雄A怪物くん』でもおなじみの3大モンスターといえば、フランケンシュタイン、ドラキュラ、狼男。このうち、フランケンシュタインはメアリー・シェリー『フランケンシュタイン』、ドラキュラはブラム・ストーカー『吸血鬼ドラキュラ』と、一般のかたにもわりかしその出自が知られていますが、狼男はそこまで有名ではありません。研究者のあいだでは1のフレデリック・マリアット「人狼」が狼男を題材にした最も古い作品だと考えられているようです。宮部みゆき先生のセレクションはさすがですね。

オオカミは大神 狼像をめぐる旅』や『オオカミの護符』などの近年の著作から見ても分かるように、日本におけるオオカミは一般的に神聖視されています。オオカミの語源が「大神=山の神」だというのもかなり信頼がおける見解のようです。それに引き換え欧米では、15『狼憑きと魔女』などから分かるように、オオカミは魔女と同列、ということはすなわち悪魔と隣り合わせの存在とみなされているんですね。13『MASTERキートン』では、一度死んだはずの人間が生き返るという、ゾンビさながらの物語が描かれます。

 

贈る物語 Terror みんな怖い話が大好き (光文社文庫)

1.フレデリック・マリアット「人狼

収録本 宮部みゆき編『贈る物語 Terror みんな怖い話が大好き光文社文庫、2006年

海外のホラー小説の古典、有名作品を中心に、宮部みゆきがセレクトした15編は、名作ぞろい。身体の芯から震え上がる恐怖の時間をどうぞご体験あれ。

 

死のなかばに (恐怖と怪奇名作集)

2.アルジャーノン・ブラックウッド「ランニング・ウルフ」

収録本 ベン・ヘクト他『恐怖と怪奇名作集9 死のなかばに岩崎書店、1999年

ある本を書くために、わたしは、ニューヨークのうらさびれた町に、一軒の家をかりました。ところが、800年に建てられた、その古い家の庭に、夜な夜な、よぼよぼの老婆があらわれて、花壇をみつめるのです…。ベン・ヘクトの表題作のほかに、ブラックウッドの「ランニング・ウルフ」、フォースターの「天の乗合馬車」の二編を収録。

ブラックウッド傑作選 (創元推理文庫 527-1)

3.アルジャーノン・ブラックウッド「犬のキャンプ」

収録本『ブラックウッド傑作選』創元推理文庫、1978年

贈る物語 Terror みんな怖い話が大好き (光文社文庫)

4.ピーター・フレミング「獲物」

収録本 宮部みゆき編『贈る物語 Terror みんな怖い話が大好き光文社文庫、2006年

海外のホラー小説の古典、有名作品を中心に、宮部みゆきがセレクトした15編は、名作ぞろい。身体の芯から震え上がる恐怖の時間をどうぞご体験あれ。

血染めの部屋―大人のための幻想童話

5.アンジェラ・カーター「狼人間」「狼たちの仲間」「狼アリス」

収録本『血染めの部屋 大人のための幻想童話ちくま文庫、1999年

純白の処女の喉元に飾られた血の色の首飾り。さしこむ月光の中、下肢から血をしたたらせる狼少女…。女は、その身体の奥にいつも血の匂いを秘めている。赤頭巾、白雪姫、青ひげ、吸血鬼譚などに着想を得て、性のめざめと変容とを描く、セクシュアルで残酷な短編集。

怪奇小説精華―世界幻想文学大全 (ちくま文庫)

6.ラドヤード・キップリング「獣の印」

収録本 東雅夫編『怪奇小説精華 世界幻想文学大全ちくま文庫、2012年

古今の怪奇幻想文学の中から厳選に厳選を重ねて編まれた3巻本アンソロジーの本書は「怪奇」篇。世界最古の怪談会小説として知られるルキアノスの作品に始まり、デフォー、メリメ、ゴーゴリモーパッサンなど文豪中の文豪たちによるベスト・オブ・ベストな怪奇小説を、岡本綺堂神西清平井呈一らの歴史的名訳によって1巻に結集。

サキ短編集 (新潮文庫)

7.サキ「狼少年」「セルノグラツの狼」

収録本『サキ短編集新潮文庫、1958年

ビルマで生れ、幼時に母と死別して故国イギリスの厳格な伯母の手で育てられたサキ。豊かな海外旅行の経験をもとにして、ユーモアとウィットの糖衣の下に、人の心を凍らせるような諷刺を隠した彼の作品は、ブラックユーモアと呼ぶにふさわしい後味を残して、読者の心に焼きつく。『開いた窓』や『おせっかい』など、日本のSFやホラー作品にも多大な影響をあたえた代表的短編21編。

ザ・ベスト・オブ・サキ(1) (ちくま文庫)

8.サキ「ガブリエル・アーネスト」

収録本『ザ・ベスト・オブ・サキ』1巻、ちくま文庫、1988年

残酷さとユーモア、諧謔エスプリにあふれた短編の数々によって読者を魅了するサキ。人々の醜聞を次々と暴くため恐慌をひきおこす人間の言葉をしゃべる猫の話。長年憎しみ合ってきた二家族の闘いの果てに訪れる和解を待ちかまえる皮肉な結末。その家柄のものに死が近づくとオオカミの声が四方八方から聞こえてくるセルノグラツ城に、ある冬の夜、長く尾を引く遠吠えが聞こえてきた話。人間の暗黒部分に肉薄する珠玉の短編50点を収録した決定版サキ短編集。

パリの狼男 (Hayakawa pocket mystery books (912))

9.ガイ・エンドア『パリの狼男早川書房、1965年

ガイ・エンドアはデュマの生涯を題材にした『パリの王様』で知られる作家。過去に地下牢に幽閉され、生肉を与えられて生き延びた男の血を引くベルトランは、傷ついた鳩の傷口をなめて血の味を覚える。伯父にその性行を知られた彼はしばらく監禁されていたが、脱出してパリに出る。時はパリ・コミューンの時代。ベルトランは恋に落ち、狼男に生まれた宿命を呪う。

獣人 ―異形コレクション (光文社文庫)

10.井上雅彦編『獣人 異形コレクション光文社文庫、2003年

――夜の子供たち……。あるいは、今宵のテーマである主人公たちを、そう呼ぶこともできたでしょう。しかし――恐怖に凍りついた人間たちの、絹を裂くような悲鳴に敬意を表して、ここでは、もう少し綴り(スペル)の短い魔法の名前で呼ぶことにいたしましょう。〈獣人〉……それは、怪奇と幻想の領域のなかでも、ひときわ美しい輝きを放つ、異形たちの物語なのです。

妖魔の宴(うたげ)〈狼男編 1〉 (竹書房文庫)

11.菊地秀行監修『妖魔の宴 狼男編1竹書房文庫、1992年

人間は誰もが天使の理性と狼の野性を合わせ持つ。そして天使の仮面に飽きた時、人間は狼への〈変身〉を願望する。狼となった人間の出現する時代は。舞台は。いや、過去、現在、未来、人間の存在するところすべてに、人間の二面性ある限り、変身願望ある限り、〈狼人間〉は跳梁し続けるのだ。10人のベテラン作家や期待の新鋭が、最も現代的なモンスター=〈狼人間〉をテーマに筆を振るい、ホラー、サスペンス、SFのみならず、哲学的領域にまで踏み込むアンソロジーの決定版。

妖魔の宴(うたげ)〈狼男編 2〉 (竹書房文庫―スーパー・ホラー・シアター)

12.菊地秀行監修『妖魔の宴 狼男編2竹書房文庫、1992年

冷えびえと冴えわたる月光が、人間の隠された本性を暴き出す!ルナティックの魔力にとりつかれた人間の変わり果てた姿は―荒野をさまよう狼。月の光は、人間社会をあまねく照らしだす。未来の超メガロポリスも、18世紀ヨーロッパの一寒村も、犯罪うずまく都市の裏側も―。そして、そこには今しも獣に変わろうとする哀れな人間の姿があるのだ。次に人狼と化すのは誰だ?サイコ・スリラーからパロディ、SFに至るまで、気鋭の作家陣によるアンソロジー第5弾。

 

MASTERキートン (2) (ビッグコミックス)

13.浦沢直樹「RED MOON」「SILVER MOON」

収録本『MASTERキートン』2巻、小学館、1989年

考古学者にしてオプ(探偵)。元SAS(英国特殊空挺部隊)のサバイバル教官。さまざまなキャリアを持つ男・平賀=キートン・太一が、世界をまたにかけ、保険調査員として難事件に挑む、知性派サスペンス!!

きれいなお城の変身の物語―ヘビ女から狼男まで

14.桐生操きれいなお城の変身の物語 ヘビ女から狼男まで』大和書房、1996年

ヘビ女、人魚、狼男、吸血鬼などヨーロッパの歴史のなかに見られる数多くの変身譚を紹介。愛と憎しみ、嫉妬と欲望の渦巻く人間ドラマを通して浮かび上がるさまざまな変身譚を鮮やかに描き切る。

人狼伝説―変身と人食いの迷信について

15.セイバイン・ベアリング=グールド『人狼伝説 変身と人食いの迷信について人文書院、2009年

狼憑きとは何か。ヨーロッパ世界でどのように受け止められてきたのだろうか。人間性そして人と神との関係に向けられた著者の探求心はとどまるところを知らず、古今東西の神話、伝説、民話、民間信仰などを蒐集・比較するとともに、青髭公(ジル・ド・レ)ら、人狼(主に人食い)や魔女と信じられた人々の裁判記録をもとに詳細に事件を記述する。

人狼変身譚―西欧の民話と文学から

16.篠田知和基『人狼変身譚 西欧の民話と文学から』大修館書店、1994年

魔女とならんで西欧民間伝承のなかに生きる最大のテーマ「人狼」とは何か。狼変身は場所をかえれば、熊、馬、龍、猿、蛇、孤への変身となって世界各地にくまなく存在する。ヨーロッパをはじめ、カナダ・日本・アジアの伝承と文学、あるいは歴史の裏側に動物変身譚の起源と変遷を探りながら、そこに流れる人間の真実を浮き彫りにして行く。動物に姿を変えて生きる(生きざるをえない)人たちの哀しみを思い、「いじめ」を生み出す社会の無意識の暴力を告発する。

狼憑きと魔女17世紀フランスの悪魔学論争

17.ジャンド・ニノー『狼憑きと魔女 17世紀フランスの悪魔学論争工作舎、1994年

狼に変身し、野原を駆け巡り、動物をむさぼり食ったと告白する男。特殊な薬を体に塗りこみ、魂だけが分離して魔女集会に参加していた女。彼らの体験談は真実か、それとも悪魔の謀略による幻覚なのか。「狼憑き」「変身」、「魔女の脱魂」の問題を巡って肉体と魂の不可分、神と悪魔の関係をも含み、近世の悪魔学者の間で、キリスト教世界観を揺るがす激しく危険な論争がくりひろげられた。

狼男による狼男――フロイトの「最も有名な症例」による回想

18.ミュリエル・ガーディナー狼男による狼男 フロイトの「最も有名な症例」による回想みすず書房、2014年

フロイトの執筆したすべての症例史の中で最も精緻で、最も重要なものである」(J.ストレイチィ)とまで評される論考「ある幼児期神経症の病歴より」。その名著のなかで提示された症例「狼男」ことセルゲイ・パンケイエフの人生は、フロイト精神分析に出会うことでどのように変わったのだろうか?姉や両親との暮らし、フロイト精神分析をはじめとする数々の治療体験、ロシア革命と二度の世界大戦、そして最愛の妻テレーゼの死…。狼男自身による回想録を中心に、フロイトの後に彼に精神分析を行ったルース・マック・ブランスウィックの記録、晩年の狼男を支えたミュリエル・ガーディナーによる多面的考察が加えられ、狼男の90年以上におよぶ生涯が詳らかにされる。フロイトの「最も有名な症例」として生きた男の真実の姿に迫る、精神分析学の重要古典。