北村薫・宮部みゆき編『とっておき名短編』ちくま文庫、2011年【11冊】
北村薫・宮部みゆき編『とっておき名短編』から11冊のご紹介です。本巻の目玉のひとつは、4「壹越」。作品が収録された『虹彩和音』は私家版、今どきの言葉で言えば自費出版であるため、一般に流通していないんですね。無論、Amazonでも扱っておりません。どうしても原書を読んでみたいかたは、「日本の古本屋」をあたってみると、いいでしょう。それからもうひとつの目玉はやはり9「電筆」、本作が読めるのは本書だけ。松本清張先生のネームバリューをもってしても全集にすら収録されていない作品があるのですね。それにしてもこんなのをどうやって見つけてくるのでしょう(笑)
5「「一文物語集」より「0~108」」は、詩とも違って、小説の出だしのような文章が1行というボリュームでひたすら綴られています。創作に関心があるひとは、ここから物語を紡いでみるのもよいのではないでしょうか。そんな楽しみ方ができる作品です。6「酒井妙子のリボン」の戸板康二先生はミステリー以外にも、有名人のエピソードを多く書き残していて、読んでみると週刊誌のコラム的な味わいがあって面白いです。昭和の芸能通になりたいひとにオススメです。
KEYBOOK 北村薫・宮部みゆき編『とっておき名短篇』ちくま文庫、2011年 「しかし、よく書いたよね、こんなものを…」と北村薫に言わしめた、とっておきの名短篇!穂村弘「愛の暴走族」、川上弘美「運命の恋人」、戸板康二「酒井妙子のリボン」、深沢七郎「絢爛の椅子」、松本清張「電筆」、大岡昇平「サッコとヴァンゼッティ」、北杜夫「異形」など、目利き二人を唸らせた短篇が勢揃い。 |
1.穂村弘「愛の暴走族」 収録本『本当はちがうんだ日記』集英社文庫、2008年 自意識が強すぎて身のこなしがぎくしゃくしている。初対面の人に「オーラがない」と言われてしまう。エスプレッソが苦くて飲めない。主食は菓子パン。そんな冴えない自分の「素敵レベル」を上げたいと切望し続けて、はや数十年。みんなが楽々とクリアしている現実を、自分だけが乗り越えられないのは何故なのか?世界への違和感を異様な笑いを交えて描く、めくるめく穂村ワールド。 |
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2.蜂飼耳「ほたるいかに触る」 この世の日々や本のこと。「鯛焼き」や「ほたるいか」から「チェーホフ」「泉鏡花」まで、〈その瞬間〉をつかまえる──。感覚と認識を一粒ずつ繋いでできあがる文章は、詩や小説、エッセイなどさまざまな分野で活躍している著者ならではの独自な世界です。『図書新聞』をはじめ2006~2008年にかけての各紙誌掲載の67篇が、傑作随筆文学として今ここに誕生! |
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3.川上弘美「運命の恋人」 忘れないでいよう。今のことを。今までのことを。これからのことを──ぽっかり明るくしんしん切ない、よるべない十二の恋の物語。 |
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4.塚本邦雄「壹越」 収録本『虹彩和音』私家版、1976年 |
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5.飯田茂実「一文物語集」より「0~108」 収録本『世界は蜜でみたされる 一行物語集』水声社、1998年 命の在り方について力を与えられた想い。宇宙から分かち与えられた命のその根底は愛だと訓えられております。死者もよみがえる愛だと訓えられておりました。現代の寓話。 |
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6.戸板康二「酒井妙子のリボン」 本書は、徳富蘆花「不如帰」泉鏡花の「婦系図」夏目漱石の「坊ちゃん」森鴎外の「雁」尾崎紅葉「金色夜叉」菊池寛「父帰る」樋口一葉の「たけくらべ」谷崎潤一郎の「痴人の愛」などの明治大正の名作と呼ばれている近代古典の代表的な作品を八つ選び、それをパロディにして推理小説化したものである。 |
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7.深沢七郎「絢爛の椅子」 物語をつきぬけた物語作家。「ろまんさ」「東京のプリンスたち」「絢爛の椅子」「千秋楽」「ポルカ(全15編)」ほか。 |
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8.深沢七郎「報酬」 この世の夢は露ならむ。「アラビア狂想曲」「みちのくの人形たち」「秘戯」「極楽まくらおとし図」他。 |
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9.松本清張「電筆」 収録本 該当なし |
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10.大岡昇平「サッコとヴァンゼッティ」 裁判の進行につれて現われてくる複雑な事件の背景と、人間性の不可解な謎。アメリカ裁判史上の汚点として名高い「サッコ・ヴァンゼッティ事件」、イギリスの逆転判決で世間をわかせた「アデライデ事件」など、英米の著名な陪審裁判を題材に、事件の発生から捜査・起訴・法廷・判決までを克明に追究し、興味深い人間のドラマを浮彫りにする。劇的な緊迫感のみなぎる13の裁判物語。 |
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11.岡田睦「悪魔」 収録本『薔薇の椅子』雲井書店、1970年 |
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12.北杜夫「異形」 収録本『北杜夫全集』第2巻、1977年 |