北村紗衣「『批評の教室』刊行記念 北村紗衣さん選書フェア 批評を楽しむためのフェア」2021年【36冊】
ブログやSNSを用いて本の感想を取り交わすことが当たり前になりました。でもそうなると、「すごい!」「おもしろい!」「泣いた!」といった感想文では少々物足りなくなってくる。たまには、ひとを唸らせるもの、感心させるものも書いてみたい。しかし、いざ白紙に向き合ってみると、読んだ本について何を書けばいいのか、どのように書けばいいのか、はたと行き詰まってしまいます。そんな壁にぶち当たったときこそがステップアップするチャンス。実は、本を読み、それについて書く(すなわち読書w)というのは、それなりに技術を必要とする作業なのです(なかには、そうではないと書く変わり種もありますが)。初心者向けからそれなりに歯ごたえのあるものまで硬軟を取り揃えています。映画批評の本が何冊かありますが、案外、初心者のひとはそこを間口にアプローチしてみるのもありかも知れません、取っつきやすいですからね。14のノースロップ・フライや、13、19のロラン・バルトはいきなり読まないほうがいいでしょう、初めてのひとはまず撃沈します(笑)個人的には、神話学から物語を読み解く21『千の顔をもつ英雄』や、創作者の視点から読書に切り込んだ筒井康隆『読書の極意と掟』などもオススメです。
批評のやり方を学ぶ
1.小林真大『「感想文」から「文学批評」へ: 高校・大学から始める批評入門』小鳥遊書房、2021年 「この作品の面白さを誰かに伝えたい!」そう思ったら、本書を開いてみてください。大学は「感想文」では許されないレポートや論文を書くことが要求されます。大学の文系学部を意識している高校生にも「文学批評」の基礎からわかる本書をお勧めします! |
|
2.大橋洋一『現代批評理論のすべて』新書館、2006年 ポストセオリー時代の批評理論とは何か?33のテーマ解説、103人の批評理論家紹介、55の用語解説に、コラム、入門書ガイド―現代批評のすべてがわかる文学理論小事典。 |
|
3.トーマス・C・フォスター『大学教授のように小説を読む方法』白水社、2019年 小説好き必読の一冊!シェイクスピアや聖書の引用、天気や病気の象徴的使い方、性的暗喩、隠された政治的意図…。小説の筋を楽しむだけでなく、一歩踏み込んで読み解くための27のヒント。 |
|
フィクションとは、作者と読者が互いの手の内をうかがいながら丁々発止とわたりあう、遊戯的闘争の場である。超一流の書き手にして読み手が、古今東西から選りすぐった実例にもとづき、その戦略・技法の全てを具体的かつ実践的に伝授する。 |
|
5.三原芳秋他『クリティカル・ワード 文学理論 読み方を学び文学と出会いなおす』フィルムアート社、2020年 フェミニズム、環境批評、ポストヒューマン、精神分析、ポストコロニアリズム…多彩なトピックから文学の可能性に飛び込もう!読むことの基礎と批評理論の現在が学べるキーワード集。 |
|
6.廣野由美子『批評理論入門 『フランケンシュタイン』解剖講義』中公新書、2005年 批評理論についての書物は数多くあるが、読み方の実例をとおして、小説とは何かという問題に迫ったものは少ない。本書ではまず、「小説技法篇」で、小説はいかなるテクニックを使って書かれるのかを明示する。続いて「批評理論篇」では、有力な作品分析の方法論を平易に解説した。技法と理論の双方に通じることによって、作品理解はさらに深まるだろう。多様な問題を含んだ小説『フランケンシュタイン』に議論を絞った。 |
|
7.蓼沼正美『超入門!現代文学理論講座』ちくまプリマー新書、2015年 作者は作品を支配する神ではない!!作者と作品を切り離して読んでみよう!!“テクスト”と向き合うことで生まれる文学作品との新しい出会いは、今まで経験したことがないスリリングでクールな読書体験となるでしょう。 |
|
8.ピーター・バリー『文学理論講義 新しいスタンダード』ミネルヴァ書房、2014年 本書はいわば「ポスト理論」時代の文学理論入門書である。原書は出版後、講義用テキストとして使われ、版を重ねてきた。ワークブックとしての性格を併せもち、批評の実践を経験することで、難解な理論も消化しやすくなる。 |
|
9.廣野由美子『小説読解入門 『ミドルマーチ』教養講義』中公新書、2021年 小説はいかに読めるか――。読書に正解はないかもしれない。しかし、小説世界を味わうコツは存在する。本書は、19世紀英国の地方都市を舞台としたG・エリオットの傑作長編『ミドルマーチ』を実例に、前半の「小説技法篇」で作家の用いるテクニックを解説。後半の「小説読解篇」では、歴史や宗教、科学、芸術などの〈教養〉を深める11の着眼点で、小説の愉しみ方を伝授する。ベストセラー『批評理論入門』姉妹篇。 |
物語とそれを読むことの意味を考える
10.ケンダル・ウォルトン『フィクションとは何か ごっこ遊びと芸術』名古屋大学出版会、2016年 ホラー映画を観れば恐怖を覚え、小説を読めば主人公に共感する―しかし、そもそも私たちはなぜ虚構にすぎないものに感情を動かされるのか。絵画、文学、演劇、映画などの芸術作品から日常生活まで、虚構世界が私たちを魅了し、想像や行動を促す原理をトータルに解明するフィクション論の金字塔、待望の邦訳。 |
|
11.ノエル・キャロル『批評について 芸術批評の哲学』勁草書房、2017年 批評とは、理由にもとづいた価値づけ(reasoned evaluation)である!恣意的な深読みはなぜ悪いのか。作者の意図は批評にどう関わるのか。客観的な批評を行うにはどのような作業が必要なのか。分析美学の泰斗であり映像批評家としても活訳する著者が送る、最先端の批評の哲学。 |
|
12.富山太佳夫『文化と精読 新しい文学入門』名古屋大学出版会、2003年 いま文学を読むとは何か? フェミニズムから歴史と文化の理論にいたる批評の焦点を明晰に解説。小説の成立、センチメンタリズム、ユートピア小説、植民地と教養など、大胆かつ精緻なテクストの読みを実践した新しい文学入門。 |
|
13.ロラン・バルト『物語の構造分析』みすず書房、1979年 フランスにおける〈物語の構造分析〉は事実上、「コミュニカシヨン」誌、八号の物語の構造分析特集に始まると云ってよかろう。その巻頭を飾った、バルトの「物語の構造分析序説」は今や〈古典〉として名高い。この論文は現在においても、依然としてその重要性を失っていない。本書は、この記念碑的な労作をはじめ、批評家バルトの基調を示す「作者の死」「作品からテクストへ」、さらに、バルト的神話学ないし記号学の新しい方向を示す「対象そのものを変えること」等、八篇を収める。つねに変貌してゆくバルトの、60年代から70年代にかけての軌跡を明らかにする評論集。 |
|
14.ノースロップ・フライ『批評の解剖』法政大学出版局、2013年 過去二千年の西洋文学を対象化してその特性を構造的に明らかにし、文学の研究すなわち批評のあり方に根源的変革を迫った古典的名著。文芸評論つまり批評家による個々の作品の直接体験と作品の価値評価とは別個に、文学の全体をより大きな脈絡の中で捉えその構造を透視する真の「詩学」の存在を主張する。 |
|
従来のフィクション論の紹介・検討を通して、本書ではごっこ遊びにおいて参加者にさまざまな想像を指定する小道具の役割を果たすという点にフィクションの本質を見出す。映画・演劇・絵画・彫刻などの視覚的な作品も含む包括的なフィクション論の構築を視野に収めつつ、言語作品をめぐるフィクションの分析を完成させ、クリアな展望を示す。 |
|
16.エドワード・W・サイード『オリエンタリズム』平凡社ライブラリー、1993年 ヨーロッパのオリエントに対するものの見方・考え方に連綿と受け継がれてきた思考様式――その構造と機能を分析するとともに、厳しく批判した問題提起の書。 |
|
17.永田知之『理論と批評 古典中国の文学思潮』京大人文研東方学叢書、2019年 「道徳・倫理を離れた文学に価値はない」。儒教の枠組みのなかで多分に建前として語られるこうした言説は、時代に伴い多様化する作品と、如何に詩や文章をつくるかという技法論とに結びつき、複数の潮流を為す文学論を生み出していく。紀元前から二十世紀前期まで、文学をめぐるさまざまな言説に焦点を当て、長きにわたり語られてきた文学の系譜をたどる。 |
|
18. ピエール・バイヤール『読んでいない本について堂々と語る方法』ちくま学芸文庫、2016年 本は読んでいなくてもコメントできる。いや、むしろ読んでいないほうがいいくらいだ―大胆不敵なテーゼをひっさげて、フランス文壇の鬼才が放つ世界的ベストセラー。ヴァレリー、エーコ、漱石など、古今東西の名作から読書をめぐるシーンをとりあげ、知識人たちがいかに鮮やかに「読んだふり」をやってのけたかを例証。テクストの細部にひきずられて自分を見失うことなく、その書物の位置づけを大づかみに捉える力こそ、「教養」の正体なのだ。そのコツさえ押さえれば、とっさのコメントも、レポートや小論文も、もう怖くない!すべての読書家必携の快著。 |
|
19.ロラン・バルト『テクストの楽しみ』みすず書房、2017年 「楽しみのテクスト―満足させ、満たし、幸福感を与えるもの。文明からやって来て、文明と決裂することなく、読書の心地よい実践とむすばれるもの」「歓びのテクスト―放心の状態におくもの、意気阻喪させるもの。読者の、歴史的、文明的、心理的な基底だとか、その趣味、その価値観、その記憶の一貫性を揺り動かすもの」「テクストの楽しみ。古典。文明。知性。アイロニー。繊細さ。幸福感。伎倆。安全。歓びのテクスト。楽しみは粉々になる。国語は粉々になる。文明は粉々になる」46の断章から編まれた、“身体の思考”によるロマネスク。テクストを読む=書く主体が、自伝をたずさえてここに戻って来る。「制度としての作者は死んだ」、「テクストは織物である」といった断言でよく知られたバルト後期の代表作が、達意の新訳によって蘇る。 |
|
20.ヘンリー・ジェンキンズ『コンヴァージェンス・カルチャー ファンとメディアがつくる参加型文化』晶文社、2021年 映画やTVドラマはただ鑑賞するだけではなくなってきた。ゲーム化、コミック化、SNSコミュニティ、スピンアウト。視聴者が参加し作品世界に影響を与える現代のカルチャーを論じた名著。 |
お話の型と分類を学ぶ
21.ジョーゼフ・キャンベル『千の顔をもつ英雄』ハヤカワ・ノンフィクション文庫、2015年 世界最古の英雄譚といわれるギルガメシュの冒険からオデュッセウスの苦難の旅、ブッダの修行、イザナギとイザナミの物語まで、古今東西の神話や民話に登場する「英雄」たちの冒険を比較すると、心を揺さぶる物語の基本構造が見えてくる―。ジョージ・ルーカスに“スター・ウォーズ”創造のインスピレーションを与えるなど、世界中のクリエイターたちに多大な影響を与えた神話学者キャンベルによる古典的名著の新訳版。 |
|
22.ウラジミール・Я・プロップ『昔話の形態学』水声社、1987年 文を超えたテクストのレベルにおける《文法》の探究の最初の試みとして、民話・神話・物語等の記号論的研究において、今や、構造言語学におけるソシュール『講義』にも比すべき位置をもつ記号学の第1の古典。 |
|
23.三宅隆太『スクリプトドクターの脚本教室・初級篇』新書館、2015年 TBSラジオ『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』で特集され知られる存在となった、日本に数人しかいない“脚本のお医者さん”こと“スクリプトドクター”=三宅隆太の初の脚本指南書。あなたにやさしく語りかけるかつてない画期的な一冊。『スクリプトドクターの脚本教室・中級篇』もオススメ。 |
映画批評を学ぶ
24.町山智浩『今のアメリカがわかる映画100本』サイゾー、2017年 「月刊サイゾー」にて10年以上も続く長寿連載『映画でわかる アメリカがわかる』が待望の書籍化! ブッシュJr、オバマ、トランプまでの三代の大統領を、そして、今の大国が抱える問題点を“100本以上の映画"を通じて鋭く見抜いてきた人気コラムニストによる同書。「トランプ現象」は、いったいなぜ起こったのか? アメリカの激動の10年が、映画でわかる! |
|
25.宇多丸『ライムスター宇多丸の映画カウンセリング』新潮文庫、2020年 「オススメの映画は?」と問われたら、まずその人の悩みを聞くべし。それが相手にピッタリの映画を導き出す近道です!人間関係の苦しみ。親の介護。差別への憤り。政治への不満。生きる意味。人生相談に応じて宇多丸が触れる400本以上の映画の中に、必ずあなたの特別な一作がある!映画音楽、ミリタリーからアイドルまで、あらゆるカルチャーに通じる才人による、刺激的な映画ガイド。 |
|
アンドレ・バザン(1918‐1958)はフランスの映画批評家。サイレントからトーキーへの移行に際し批評の分野で新時代を開き、自ら創刊した「カイエ・デュ・シネマ」で健筆をふるった。本書は彼の映画理論・批評の集大成の書である。上巻にはモンタージュの拒絶、映画と演劇の関係など映画における“現実”とは何かを追究した論考を収録。 |
|
27.高橋ヨシキ『高橋ヨシキのシネマストリップ』スモール出版、2017年 NHKラジオ第1「すっぴん!」内で放送中の“自称・日本一刺激的な早朝映画コラム”「シネマストリップ」が書籍化。気鋭の映画ライター、高橋ヨシキが映画に隠された真の魅力をじっくりと解説。著者自選による33回分の放送を大幅に編集・加筆・修正して収録。『高橋ヨシキのシネマストリップ 戦慄のディストピア編』もオススメ。
|
|
28.杏レラト『ブラックムービー ガイド』スモール出版、2018年 なぜ『ブラックパンサー』や『ムーンライト』はアメリカ映画の歴史を変えたのか?「スパイク・リー以降」のブラックムービーの歴史を紐解き、アメリカ映画とブラックカルチャーの変化を知る。…だけじゃない、最高にクールで面白い「ブラックムービー」のガイド本!大ヒット作からカルト映画まで100本超を一挙紹介! |
フェミニスト批評にチャレンジする
29.北村紗衣『お砂糖とスパイスと爆発的な何か—不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門』書肆侃侃房、2019年 フェミニストの視点で作品を深く読み解けば、映画もドラマも演劇もこんなにおもしろい。自由に批評するために、自らの檻をぶち壊そう! 映画と演劇を年に200本観るシェイクスピア研究者によるフェミニスト批評絶好の入門書。 |
|
30.キャトリン・モラン『女になる方法 ロックンロールな13歳のフェミニスト成長記』青土社、2018年 生理の始まり、ムダ毛の処理、胸の膨らみ、ブラジャーの選び方、体型の維持…恋愛、結婚、出産、中絶、子育て、キャリア…「女」として生きるには、考えることが多すぎる!音楽ライター、作家、司会者として活躍する著者が「間違った方法で女になろうとした時のこと」を綴った、皮肉とユーモアたっぷりの痛快フェミニストエッセイ。ついに邦訳! |
|
31.斎藤美奈子『紅一点論 アニメ・特撮・伝記のヒロイン像』ちくま文庫、2001年 「男の中に女がひとり」は、テレビやアニメで非常に見慣れた光景である。その数少ない座を射止めた「紅一点」のヒロイン像とは。「魔法少女は父親にとっての理想の娘である」「(紅一点の)紅の戦士は“職場の花”である」「結婚しないセクシーな大人の女は悪の女王である」など見事なフレ-ズでメディアにあふれる紅一点のヒロインとそれを取り巻く世界を看破する評論。 |
|
32.若桑みどり『お姫様とジェンダー アニメで学ぶ男と女のジェンダー学入門』ちくま新書、2003年 コレット・ダウリングの『シンデレラ・コンプレックス』が刊行され、話題をよんだのは一九八二年。すでに二十年以上になるが、その間、「白雪姫」「シンデレラ」「眠り姫」などのプリンセス・ストーリーは、ますます大量に生産され、消費されている。大量に消費されるからその影響力も絶大である。本書では、ディズニーのアニメを題材に、昔話にはどんな意味が隠されているかを読み解く。いつの間にか思い込まされている「男らしさ」「女らしさ」の呪縛から、男も女も自由になり、真の男女共同参画社会を目ざす。 |
|
33.北村紗衣『シェイクスピア劇を楽しんだ女性たち 近世の観劇と読書』白水社、2018年 追っかけから始まる、シェイクスピア女子の歴史。女性たちはいかにシェイクスピアを受容し、その正典化に影響を与えてきたか。フォリオへの書き込みが物語るもの、批評や研究、ファンの一大イベントなど、十八世紀までの観客や作家、宮廷人などの関わりを見る。 |
|
34.イヴ・K・セジウィック『男同士の絆 イギリス文学とホモソーシャルな欲望』名古屋大学出版会、2001年 ホモソーシャルな文学。シェイクスピアからディケンズにいたる代表的テクストを読み解くことによって、近代における欲望のホモソーシャル/ヘテロセクシュアルな体制と、その背後に潜む「女性嫌悪」「同性愛恐怖」を掴み出し、ジェンダー研究に新生面を拓いた画期的著作。 |
|
赤毛のアン、若草物語、小公女、あしながおじさん……大人になって読む翻訳少女小説は、子どもの頃には気づかなかった発見に満ちている。懐かしいあの名作はいま、何を教えてくれるのか? |
|
36.若桑みどり『イメージの歴史』ちくま学芸文庫、2012年 有名芸術家の名作はもとより、版画や挿絵、広告や記念碑に至るまで、美術作品が、何のために、どのように描かれてきたか―それが「イメージの歴史」だ。ここではさまざまな学問領域を自由に往来し、ポスト・コロニアル的かつジェンダー的な視線で従来の美術史を書き換える。絵画と社会のかかわりや画像の解釈方法などの理論を踏まえ、さらに西欧文化が繰り返し描いてきたイメージにメスを入れ、その精神的・社会的な背景を明らかにする。レイプを描き続けたのはなぜか、新しい政治形態はどのような画像を生んだか―人間の想像力に新たな光を当てる美術史の誕生。 |