東雅夫編『鬼 文豪怪談ライバルズ!』ちくま文庫、2021年【13冊】

KEYBOOK『鬼 文豪怪談ライバルズ!』の底本から14冊のご紹介です。前巻『刀』と較べてもまったく遜色のない、泉鏡花に始まり手塚治虫に終わるバリエーションの多彩さ。継投する顔ぶれも高田衛京極夏彦に北村透谷といった目白押し感。本読みの悩みのひとつに、好みのバランスが偏るというものがありますが、そんなときジャンルを開拓するのにうってつけなのがアンソロジーです。自分のアンテナ・視野では拾いきれなかった書籍をすっと差し出され、またたく間に「次に読む本リスト」が埋まっていきます。本はうまく使い倒していきましょう!

さて、わたしからも数点ご紹介。藤子・F・不二雄流血鬼」、吸血鬼ではありません、流血鬼です。オチにゾッとするか、ニヤッとするか。馬場あき子『鬼の研究』、鬼とは何かについて書いた民俗学における名著です。鬼に深く関心がある向きはご一読を。奥浩哉GANTZ(17巻から)』、登場するのはその名もオニ星人。一部のひとには見慣れた池袋の風景のなかで人間と鬼が殺し合いを演じます。入江敦彦テ・鉄輪」、「てつりん」ではなく「かなわ」と読みます。自分を捨てた亭主を呪い殺すべく貴船神社に丑の刻参りをする女の物語「鉄輪」が現代に置き換わるとどうなるのか。

 

鬼 ――文豪怪談ライバルズ! (ちくま文庫)

KEYBOOK

東雅夫編『鬼 文豪怪談ライバルズ!ちくま文庫、2021年

この世ならざるものの象徴として古今の物語に現れ続ける存在、鬼――。彼らをめぐる名作が集結! 新機軸の文豪×怪談アンソロジー、待望の第二弾。人の世に光がある限り、「鬼」は必ず現れ続ける。喰らい、奪い、時に魅惑する異形の者たち。幾千年の月夜を駆け抜け、現代に、そして未来へも向かう──。恐ろしくも妖艶な至高の短篇がここに集結。新機軸怪談傑作選!

 

鏡花全集 巻1

1.泉鏡花「鬼の角」

底本『鏡花全集1 岩波書店、1973年

江戸文学の虚構と形象

2.高田衛「月の夜の鬼たち 自己疎外としての執念」

底本『 江戸文学の虚構と形象 森話社、2001年

秋成・源内・馬琴など近世小説の刺激的な読解を展開し、幻想と怪談研究によって文化の深部にアプローチしてきた著者が、江戸文学の光芒と陰翳を集成、その虚構と形象の方法に迫る。

現代語訳 雨月物語・春雨物語 (河出文庫)

3.上田秋成著・円地文子訳「青頭巾」

底本『現代語訳 雨月物語・春雨物語河出文庫、2008年

強い恨みを忘れず亡霊と化した崇徳院西行の問答が息もつかせぬ「白峯」、義兄弟の絆が試される「菊花の約」、小姓に恋するあまり尊い身を鬼に堕とした僧が切ない「青頭巾」など、日常の闇にひそむ異界を描いた日本の代表的本格怪異小説集『雨月物語』。続編と言われる『春雨物語』を併せ、名訳と詳細な注で贈る決定版。

鬼談 (角川文庫)

4.京極夏彦「鬼情 上田秋成 雨月物語・青頭巾より」

底本『鬼談』角川文庫、2018年

藩の剣術指南役・桐生家に生まれた作之進には、右腕がない。元服の夜、父は厳かに言った。「お前の腕を斬ったのは儂だ」。一方、柔らかで幸福な家庭で暮らす“私”は何故か、弟を見ていると自分の中に真っ黒な何かが涌くのを感じていた。ある日、私は見てしまう。幼い弟の右腕を掴み、表情のない顔で見下ろす父を。過去と現在が奇妙に交錯する「鬼縁」ほか、情欲に囚われ“人と鬼”の狭間を漂う者たちを描いた、京極小説の神髄。

夢みる少年の昼と夜(新潮文庫)

5.福永武彦「鬼」

底本『夢みる少年の昼と夜新潮文庫、1972年

帰りの遅い父を待ちながら優しく甘い夢を紡ぐ孤独な青年の内面を、ロマネスクな筆致で描いた『夢みる青年の昼と夜』。不思議な死をとげた兄の秘密が、やがて自己の運命にもつながっていることを知る若い女性の哀れ深い生を描いた『秋の嘆き』。他に『死神の馭者』『鬼』など、意識の底の彷徨を恐ろしいほどに凝視し、虚構の世界にみごとに燃焼させた珠玉短編あわせて11編を収録する。

鬼に喰われた女 今昔千年物語 (集英社文庫)

6.坂東眞砂子「鬼に喰われた女」

底本『鬼に喰われた女 今昔千年物語集英社文庫、2009年

時は平安。京に上った東国の長者が妻と荒れ果てた邸宅に宿を取った。数日たった夕方、男が縁にいると妻の叫び声が聞こえる。驚いた男が部屋に飛び込むと、暗闇から伸びた太い二本の腕が妻をつかんで奥の間に引きずりこむところだった。妻は鬼につかまっていたのだ…(「鬼に喰われた女」)。表題作ほか今昔物語からインスピレーションをえて人間に巣食う「闇」と「エロス」を大胆に描いた短編集。

鬼の女房 (角川文庫 緑 314-12)

7.田辺聖子「水に溶ける女」

底本『鬼の女房』角川文庫、1982年

王朝の夜は、一寸先も見えない漆黒の闇だった。その闇の中を、鬼は、御所の内に、橋のたもとに、北山に、時に天空を翔り、彼岸・此岸をも自在に往来し、わが物顔に徘徊した――。若く美しい人間の女房をもてあました、中年のユーモラスな鬼、当代随一の歌よみに挑んだ芸術鬼など、さまざまな鬼の姿を軽妙洒脱な語り口で描く、鬼ものがたり六話。

三橋一夫ふしぎ小説集成〈2〉鬼の末裔 (三橋一夫ふしぎ小説集成 2)

8.三橋一夫「鬼の末裔」

底本『鬼の末裔 三橋一夫ふしぎ小説集成2出版芸術社、2005年

謹厳だった父が残した十三体の仏像と一冊の古い和本。スペイン語で綴られたその本を読んだぼくは、十一世紀に日本に渡来して大江山の鬼・酒顛童子と恐れられたスペイン人が、自分の祖先であったことを知る!自らの身体に流れる恐ろしい「鬼の血」とは?(表題作)他に、エチオピアに棲むという桃色の珍獣に取り憑かれた男の半生を描く「怪獣YUME」、四年前に自宅の便所から忽然と消えた男が再び姿を現す「湯河原奇遊」など、単行本未収録作品2篇を含む全19篇。

北村透谷選集 (岩波文庫 緑 16-1)

9.北村透谷「松島に於て芭蕉翁を読む」

底本『北村透谷選集岩波文庫、1970年

明治二十年代の詩人として,評論家として,また平和主義運動家として多くの可能性を含みながら,自ら命を絶った北村透谷の主要作品を一冊にまとめた.革命的ロマン主義の長詩「楚囚の詩」など詩九篇,「厭世詩家と女性」など評論・感想四十余篇,他に,熱烈な恋愛の後に結婚した石坂ミナへの書簡も収めて透谷の全貌を示す.

霧が晴れた時 自選恐怖小説集 (角川ホラー文庫)

10.小松左京「黄色い星」

底本『霧が晴れた時 自選恐怖小説集角川ホラー文庫、1993年

太平洋戦争末期、阪神間大空襲で焼け出された少年が、世話になったお屋敷で見た恐怖の真相とは…。名作中の名作「くだんのはは」をはじめ、日本恐怖小説界に今なお絶大なる影響を与えつづけているホラー短編の金字塔。

大人のための残酷童話 (新潮文庫)

11.倉橋由美子「安達ケ原の鬼」

底本『大人のための残酷童話新潮文庫、1998年

超現実的なおとぎ話こそ、同情も感傷もない完全に理屈にあったもので、空想ではありません。そこにあるのは、因果応報、勧善懲悪、自業自得の原理が支配する残酷さだけです。この本は、ギリシア神話アンデルセン童話、グリム童話、日本昔話などの、世界の名作童話の背後にひそむ人間のむきだしの悪意、邪悪な心、淫猥な欲望を、著者一流の毒を含んだ文体でえぐりだす創作童話集です。

銃器店へ

12.中井英夫「黒塚」

底本『銃器店へ』角川文庫、1975年

手塚治虫マンガ演劇館 (ちくま文庫)

13.手塚治虫「安達が原」

底本『手塚治虫マンガ演劇館ちくま文庫、2001年

ベニスの商人」「ファウスト」「弁慶」「シラノ・ド・ベルジュラック」など、手塚マンガ版お芝居を大公開! 演劇ファンにも楽しめます。