自殺は罪悪であるか-富士正晴『軽みの死者』より

自殺は人間のみが持つ能力であり、人間の特権であると言つた西哲の言葉にも、私は、別に大した意味も感じませんが、さればといつて、自殺は罪悪であるといふ言葉には、論理の飛躍があると思ひます。それと同時に、自殺に対しては何でも彼でも悪罵さへ加へて…

狂気

狂人とは理性を失った人のことではない。狂人とは理性以外のあらゆる物を失った人である。 G.K. チェスタトン 正統とは何か 作者: ギルバート・キースチェスタトン,Gilbert Keith Chesterton,安西徹雄 出版社/メーカー: 春秋社 発売日: 2009/02 メディア: 単…

アナザーディメンション

ねえ、考えてみて、おでんのことしか知らないひとがおでんを作ってもそれはただの縮小再生産、新たなアイデアやビジョンは常にアナザーディメンションからやってくるものなの。花の精 TVアニメ『おそ松さん』(2015年)第15話 【Amazon.co.jp限定】おそ松さ…

創造と狂気-ピエール瀧氏と舛添氏--中村雄二郎『述語集』より

狂気とはまず、人間の根源的自然として、理性によって区別され、限定され、しばしば抑圧されるものとして捉えられることができる。だから、狂気がどのようなものとして現われ、どのようなものとして理解されるかということは、逆に、狂気と区別され分割され…

ジリ貧していく部分最適化-升田幸三『勝負』より

将棋は王さんを詰めることが主ですから、少々の損はかまわんですけれど、碁は本来、そうはゆかない。損をしてはダメなんです。だから早く儲けようとするし、自分の場所をとられまいと必死になる。 ところが碁のおもしろいところは、王様をとられたらおしまい…

有給を取るための心得-イェーリング『権利のための闘争』より

健全な権利感覚は、劣悪な権利しか認められない状態に長い間耐えられるものではなく、鈍化し、萎縮し、歪められてしまう。けだし、しばしば指摘したように、権利の本質は行為に存するのだから。炎によって流れる空気が必要なように、権利感覚にとっては行為…

子供にもわかるほど単純な真実-コーマック・マッカーシー『血と暴力の国』より

真実ってやつはいつだって単純なんだろうと思う。絶対そうに違いない。子供にもわかるほど単純でなくちゃならないんだ。子供の時分に覚えないと手遅れだからね。理屈で考えるようになるともう遅すぎるんだ。(コーマック・マッカーシー『血と暴力の国』) フ…

死の意味、自分<他人-佐野洋子『役に立たない日々』より

でも思う。私は死ぬのは平気だけど、親しい好きな友達には絶対に死んで欲しくない。死の意味は自分の死ではなく他人の死なのだ。(佐野洋子『役に立たない日々』(朝日文庫、2010年)p.246) 社会的属性、すなわち肩書が他者によって規定されるものならば、…

神々は姿を消していく-山折哲雄『神と仏』より

ギリシア神話やインド神話に現われる神々、あるいはギリシア彫刻やインド彫刻に登場する神々を眺めていると、日本の神話や造形美術に描かれている神々には、個人差というものがまったく欠けているといっていい。年齢とか容姿とかいう点で、いい意味での定型…

オラガとオカゲ-桐野夏生『東京島』より

すべて、何かを失い、何かを得て、世界は動くのだ。そのための言葉がオカゲだとは。何と世界は豊かなのだろう。何と母親は賢かったのだろう。これからは、オラガの我ではなく、オカゲで生きねばならないのだ。 桐野夏生『東京島』(新潮文庫、2010年) 「息…

新たな工夫とずらし-長山靖生『ゴジラとエヴァンゲリオン』より

日本文化は、ある主題を何度も作り変え、そのたびに新たな工夫とずらしによって、同じ登場人物に別のドラマを与えることを得意とする。和歌の本歌取りや歌舞伎の見立てなどがその典型だが、ゴジラもシリーズ化されて子ども向けの正義の味方化が進むにつれ、…

脳髄は物を考える処に非ず-養老孟司『読まない力』より

文明社会では、多くの行為が間接的になる。(養老孟司『読まない力』(PHP新書、2009年)p.117) 『僕たちのゲーム史』を書いたさやわか氏は、ゲームとは「ボタンを押すと反応する」ものと定義づけた。一般的なゲーム機は、確かにコントローラーのボタンを押…

無慈悲なる自同律-中村雄二郎『述語集』より

自同律は、矛盾律(《Aは非Aでない》)や排中律(《AはBでも非Bでもないことはありえない》)とともに形式論理学の三大法則と呼ばれているけれど、後の二つは自同律の変型されたものであり、形式論理学を支配しているのは自同律である。そういうものと…

オカルトが世界を動かす-エミール・シオラン『生誕の災厄』より

人がひた隠しにしようとしているものにしか、深さと真実はない。 エミール・シオラン『生誕の災厄』(紀伊國屋書店、1976年) 人生における真理を紹介する。〈提案は、する側に得がある〉。反転させてもよい。〈自分に得がなければ提案しない〉。提案をする…

語られなかったことは何か-養老孟司『読まない力』より

先日NHKが、新聞でいえば論説委員に相当する中堅を集めて、温暖化問題に関する数時間の討論番組を放映した。私はたまたまそれを見てしまった。NHKの意見はいわば公論で、世間の一般的意見を代表すると考えていいであろう。 こういう場合、私が気にする…

カオスの前の空白-西尾維新『暦物語』より

「……騙されるほうが悪い──って言いたいのか?」「そう言われると、そうは言いたくなくなるな。時代が悪いとでも言っておこうか。『なんでこんなものがはやってるんだ?』『はやったんだ?』というようなカオス状態を論じたいのならば、カオスの前の空白をこ…

うわさが炙りだす、ひとの本音-常光徹『学校の怪談』より

うわさはつねに信じられることを前提に広まっていく性質をもっている。その意味では、うわさは心のどこかで期待し信じたいことの露呈なのである。(常光徹『学校の怪談』新装版(ミネルヴァ書房、2013年)p.51) それまでにも「学校の怪談」という言葉がなか…

居場所

居場所ってさあ、元々そこにあるもんじゃないんだなって。自分で見つけて、自分で作ってくもんだなって。種村孝一 TVアニメ『花咲くいろは』(2011年)第26話 TVシリーズ「花咲くいろは」 Blu-rayコンパクト・コレクション(初回限定生産) 出版社/メーカー: …

消費がアイデンティティを埋め合わせる-熊代亨『融解するオタク・サブカル・ヤンキー』より

アイデンティティを埋め合わせ、「私はこういう人間です」を確立させたいと願う気持ちは、単に心理的安定に繋がるだけではありません。若者の技能習得や切磋琢磨へのモチベーションとなって、自分の居場所や役割を確保していく原動力になり得るものです──少…

自分を規定する他者の存在-中村雄二郎『述語集』より

《自分が自分であること》を自分では証明できないことは、また、自分の存在を自分で根拠づけうるかという問題にも通じる。そしてその問題を考える上にまず見逃すことができないのは、R・D・レイン(『自己と他者』一九六一、六九年)などがいう相補的アイデ…

1億人を殺害したといわれる共産主義~ステファヌ・クルトワ『共産主義黒書』

「不条理なるが故に、われ信ず」 タイホ・ツイホウ・ショケイ。共産主義ってのは、早い話が科学バカが書いた経済シナリオ、マルクス経済学の用語で言うところの〈下部構造〉なんだな。唯物史観は、ひとの歴史の発展には客観法則があるとする。従って共産主義…

神林さんの【表紙が黒い本+α】ギャラリー

表紙が黒い本に、お気楽な内容を期待するひとは少なかろう。不穏、恐怖、混沌、狂気、歪曲、絶望……そんな後ろ暗い美学が黒のなかに渦巻いていると思えばこそ、ひとは黒い本を手にしてしまう。あるいは、そんな背徳的な自分の嗜好と思考を黒のなかに見出して…

中沢新一『アースダイバー』(講談社、2005年)

「頭の中に描いた世界を現実化するのが、一神教のスマートなやり方だとすると、からだごと宇宙の底に潜っていき、そこでつかんだなにかとても大切なものを材料にして、粘土をこねるようにしてこの世界をつくるという、かっこうの悪いやり方を選んだのが、私…

パトリク・オウジェドニーク『エウロペアナ』(白水社、2014年)他

柳田國男は「自分の野望を打ち明けるならば、現代生活のあらわれては消える日々の事実から歴史を描きたい(意訳)」と書いた。おそらく、このあたりの思想にわたし自身嵌入し、サブカルから人生一般を考察し得る思想を組み立てられないかと妄想するようにな…

ハクスリー『すばらしい新世界』(光文社古典新訳文庫、2013年)

「「しかし今はたったひとりでいる人間はいないからね」とムスタファ・モンドは言った。「われわれはみんなが孤独を嫌うよう仕向けている。そして孤独になることがほぼ不可能なように生活をお膳立てしている」」 (原文は2014年執筆)ソーマ・ツカノマ・ハレ…

2017年度ベスト10

某所では恒例としているベスト10。 2017年もあますところ2週間なのでそろそろ発表してもいいかなと。手元のメモから目についたものをちょろちょろっとピックアップしただけで厳選はしていない。順位も関係ない。面白かったものを10冊選出。面白かった本はほ…

ショウペンハウエル『読書について 他二篇』(岩波文庫、1983年)

(原文は2015年執筆)哲学者なんて、身体も動かさず、頭のなかだけでうじうじものを考える、なまっちろい、よく言えばデリケート、わるく言えばナイーブなひとだと、考えている時期があった。 しかしショウペンハウエル『読書について』を読んだとき、こんな…

中公新書 わたしの好きな3冊(中央公論新社、2017年)

創刊55周年を迎えた中公新書が書店で配布している無料の冊子からご紹介。 選者13名×3冊で39冊が紹介されている。しかしそのうち2冊は重複あり。したがって、正味は37冊。重複したのは、川喜田二郎『発想法 改版 - 創造性開発のために』と筒井淳也『仕事と…

米澤穂信『遠回りする雛』(角川文庫、2010年)

(原文は2015年執筆)『氷菓』『愚者のエンドロール』『クドリャフカの順番』と長編が続いた古典部シリーズは、ひとまず3巻目にしてひと段落。シリーズ第4弾となる本作は初の短篇集だ。主人公・折木奉太郎とヒロイン・千反田えるが出会った4月から翌年の…

「執事・メイドを通してみる英国文化」ブックリスト(三省堂書店神保町本店、2016年)

学校から制服をなくそう、私服で授業をうけよう、みたいな声が昨今喧しい。そのくせメイドや執事に執着するひとが相も変わらずいることはなかなか興味深い。メイドや執事のチャームポイントは第一に彼らが着用する制服、殊にメイド服にある。彼らが同じ仕事…